意思決定の理論とは、人はどのように意思決定するか、なぜそのように意思決定してしまうのか、を説明する理論である。どう意思決定すべきかを説明した「期待効用理論」、とはいいながら合理的に意思決定できない意思決定バイアス「プロスペクト理論」の説明を行う。そして最後にエラーを減らす意思決定論として「二重過程理論」を説明する。

期待効用論

特定の事象が起きる確率とその時の利得、損失がわかれば、期待値を計算することで、合理的に意思決定することが可能である。しかし、その期待値に対し、当事者が主観的に感じる満足度は異なる。この期待値に対する満足度を期待効用という。

図表1 リスク回避と効用曲線
(世界標準の経営理論入山章栄著p379図表1引用)

図表1を参照する。資産が50億→100億の効用と500億→550億になる時の効用の大きさがことなる。この2つが同じ成功確率であれば資産をたくさん持つ人の方がリスク回避的になる。

プロスペクト理論

図表2 プロスペクト理論
(世界標準の経営理論入山章栄著p382図表2引用)

プロスペクト理論は図表2のような説明がされている。

命題1:人は投資成果(図表2の横軸)に対して「主観的な(心の中に)リファレンス・ポイント」を持っている。リファレンス・ポイントより右側にいくと「利得」として認識され、左に行くと「損失」と認識される。

命題2:人は利得よりも損失の方が心理的に重く受け止める。「人は損失を、より避けたがる」性質をもつ。

命題3:「人は大きな利得を得るほどに、効用の追加的な伸び幅が減少するため、リスク回避的になる」(期待効用論と同じ)。「損失が増えるほど、効用の追加的な減少幅が減るため、人は損をするほど、よりリスク志向的になる」

人の主観にうまく働きかけて(心理的に働きかけて)リファレンス・ポイントを動かすことにより、他人の意思決定に影響を与えることができる。

二重過程理論(直感と論理的思考)

人の脳内では、外部からの刺激に対して、大きく2種類の意思決定の過程(直感と論理的思考)が同時に、異なるスピードで起きているという理論

直感

早く、とっさに、思考に負担をかけず、無意識に行われる意思決定

直感は多くのバイアスがかかっている。代表的なバイアスを3つ挙げる

  • 現状維持バイアス:損失を出さないために現状維持を優先してしまう
  • サンクコストバイアス:明るみに出てしまう埋没コストに心理が引きずられる
  • アンカリングバイアス:最初の情報に引っ張られる。値引き1万円を狙うために値引き2万円から交渉する

ここでの示唆は、「直感だけに頼らない意思決定の方がよい」ということ

論理的思考

時間をかけて、段階的に、思考をめぐらせながら意識的に行う意思決定

不確実性の高い環境では、論理的に考える際に使う、過去の経験や情報収集などが役に立たないことが多い。この意思決定の役に立たない程度をヴァライアンスという。

ここでの示唆は、昨今の不確実性の極めて高い世の中では、論理的思考もエラーを起こす可能性が高い。

直感と論理的思考の補完関係

予測エラー度=(バイアス)²+ヴァライアンス+ランダムエラー

直感だけではバイアスが増加する。論理的思考だけではヴァライアンスが装荷する。

バイアスとヴァライアンスのトレードオフ(ジレンマ)を解消するため補完的に直感と論理的思考を活用する。