世界の経営学におけるリーダーシップ研究は1940年代頃から行われてきた。1980年代に確立した「リーダー・メンバー・エクスチェンジ」(LMX)理論そして、その後注目されるようになった「トランザクショナル・リーダーシップ」「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」さらに2000年代に出てきた「シェアード・リーダーシップ」について説明する。

リーダーシップの定義(バーナード・バス 1990年)

リーダーシップとは、状況あるいはメンバーの認識・期待の構成・再構成がしばしば行われる(2人以上のメンバーから成る)グループにおける、メンバー間の相互作用のことである。この場合リーダーとは「変化」を与える人、すなわち他者に対して(その他者がリーダーに影響を与える以上に)、影響を与える人のことを指す。グループ内のある人が他メンバーのモチベーション・能力を修正する時、それをリーダーシップという。(Bass,1990,p.19-20. 入山章栄 意訳)

つまり、執行役員や部長などの役職のこととは限らない、あくまでも他者に対し「心理的に」「変化をもたらす」ことである。

リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)理論

リーダーと部下(メンバー)の心理的な交換・契約関係(exchange)に視点をあてる理論である。

以前のリーダーシップ研究ではリーダーの固有の特性や行動スタイルは、部下に均一に影響を与えると考え、上司と部下は同様の関係性を築き上げるとの暗黙の前提があった。LMX理論は、分析の焦点をリーダー個人から「リーダーと部下一人ひとりとの関係性」に変えた。

リーダーから個々のメンバーに対する期待に対して、期待以上の成果を出すメンバーに対しては、高い評価を行うが、期待以下の成果を出すメンバーに対しては、挽回や改善の兆しが無ければ低い評価を行うこととなる。よって、同じ組織の中で「心理的に質の高い交換・契約関係」のグループと「心理的に質の低い交換・契約関係」のグループが生まれることになる。しかし、質の低い交換・契約関係のリーダーとメンバーに対して「LMXの質を高めるためのコミュニケーション手法」などの実践研修を行うことで、関係が改善し成果に結び付いている事例もある。

トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)

部下を観察し、部下の意思を重んじ、あたかも心理的な取引・交換(トランザクション)のように部下に向き合うリーダーシップである。TSLには過去の研究蓄積から2つの特質がある。

  1. 状況に応じた報酬:成果を上げた部下に、きちんと正当な報酬を与えること。また、部下が自身の成果を「きちんと評価されている」と満足することで、さらなる成果を促す。
  2. 例外的な管理:部下が成果を上げている限り、たとえそれが古いやり方でも続けさせ、部下への直接的な指示を避けること。これもまた、部下への信頼・義務感の醸成につながる。

LMX理論における「心理的に質の高い交換・契約関係」を構築しているリーダーの態度とほぼ同義である。ただ、LMX理論は「関係性」を対象にし、TSLは「リーダーのスタイル」に焦点を当てている。

つまりトランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とは、部下に一定の業務・権限を与え、部下からの期待に適切に報いることで、信頼・尊敬の関係を醸成する好循環プロセスを築き、部下や組織の「変化」を促すことである。

トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)

TSLが「心理的な取引・交換関係」を重視するのに対し、TFLが重視するのは「ビジョンと啓蒙」である。TFLは以下の3つの資質から構成される。

  • カリスマ:企業・組織のビジョン・ミッションを明確に掲げ、それが「いかに魅力的で」「部下のビジョンにかなっているか」を部下に伝え、部下にその組織で働くプライド、忠誠心、敬意を植えつける。
  • 知的刺激:部下が物事を新しい視点で考えることを奨励し、部下にその意味や問題解決策を深く考えさせてから行動させることで、部下の知的好奇心を刺激する。
  • 個人重視:部下に対してコーチングや教育を行い、部下一人ひとりと個別に向き合い、学習による成長を重視する。

つまりTFLは、「明確なビジョンを掲げ、自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しい視点を奨励し、部下の学習や成長を重視する」リーダーシップである。

TSLとTFLは優れたリーダーシップスタイルとして補完関係にある。TSLにより「心理的に質の良い交換・契約関係」を築き、TFLにより部下(メンバー)の働く意義や存在価値を認め、メンバーの内発的なモチベーションが高まることになる。

シェアード・リーダーシップ(SL) 2000年代~

シェアード・リーダーシップ(SL)は、組織内の特定の一人がリーダーシップを執るのではなく、グループ内の複数の人間、時には全員がリーダーシップを執る。

知識ビジネス産業において極めて重要と考えられている。グループメンバー一人ひとりが「グループミッションを自分のことと考え」ており、グループ内の知識の融合積極的に行うときに、一人ひとり(時には全員)がTFLを執ることで、高い成果が得られる。

このリーダーシップに向いている組織は、知識ビジネス分野で複雑なタスクを遂行する組織であるという研究結果が出ている。

これからは一人ひとりが「自分のビジョンは何か」「自分は何をしたいのか」そして、それを協力者に語ることが大切である。