シニア社員が安全に輝く職場づくりのヒント

シニア雇用が進む現場で感じた変化

先日、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が主催する「70歳雇用推進プランナー」の年次研修を受講してきました。

近年、少子高齢化に伴う深刻な人手不足を背景に、企業における65歳までの雇用確保の義務化だけでなく、70歳までの就業確保の努力義務化が進んでいます。実際にクライアント企業を訪問する際にも、60代や70代の従業員が現場の第一線で活躍されている姿を見かける機会が非常に増えました。読者の皆様の会社でも、全体に占めるシニア社員の割合が高まっているのではないでしょうか。

国の統計を見ても、65歳から69歳の就業率は5割を超えており、多くの高齢者が「働けるうちは長く働きたい」という強い労働意欲を持っています。しかし、現場の受け入れ態勢や管理体制は、その意欲に十分追いついているでしょうか。

多くの企業で人手不足を補うために雇用を延長してはいるものの、働く環境の整備や安全面への配慮が十分でないケースを散見します。単に雇用期間を延ばすだけの「量的拡大」から、高齢社員が安心して能力を発揮できる「質的改善」へ経営の意識を切り替える時期に来ていると感じています。

職場の危険と処遇のズレという課題

研修の中で特に印象的だったのは、高年齢労働者の増加に伴う労働災害の発生状況と、いわゆる「60歳の崖」と呼ばれる処遇を巡るミスマッチです。

現在、労働災害による死傷者数のうち、60歳以上の占める割合は約30%に上っています。特に多いのが転倒や滑り、商工会議所のセミナー等でもよく話題に上る、わずか1センチに満たない小さな段差でのつまずきによる骨折などの重大事故です。どれほど意欲が高くても、加齢に伴う視力や反射神経、筋肉量の低下は避けられません。「自分はまだ動ける」という本人の主観的な感覚と、実際の身体機能との間にギャップが存在することがリスクを高めています。

一方で、定年後も同じ現場で同じような業務を担当しているにもかかわらず、継続雇用になった途端に基本給が大きく下がってしまうケースが少なくありません。この職務と待遇の不均衡は、モチベーションの低下を引き起こす要因となります。

中央労働災害防止協会の資料でも示されている通り、事業場における安全衛生管理は、設備や動線に潜む「場のリスク」と、体力や健康状態に関わる「人のリスク」の双方からアプローチする必要があります。しかし多くの現場では、「注意して作業してほしい」という精神論に頼り、組織的な仕組みづくりが後回しになっているのが実情です。

全員が働きやすい環境をつくる視点

では、経営者や人事担当者はこの課題にどう向き合えばよいのでしょうか。ここで重要になるのが「エイジフレンドリー」という職場づくりの視点です。

これは高齢者の身体的特性に配慮した環境改善を指しますが、実は高齢者だけでなく、すべての従業員にとって働きやすい職場環境を整えることと同義です。例えば、通路の段差を解消する、作業場の照度を上げる、滑りにくい床材に変えるといった「リスクアセスメント」に基づいた具体的な対策は、若手や女性社員の負担軽減やケガ予防にも直接つながります。

また、加齢による体力変化には大きな個人差があります。65歳以上では体力や健康状態に十数年分もの個人差が生じると言われており、年齢一律で役割や作業を決めるのは現実的ではありません。定期的な体力チェックや面談を実施し、客観的な数値や本人の状態を把握した上で、適材適所の業務割当を行うことが求められます。

経営トップが「安全と健康を最優先とし、シニアの知識と経験を組織の力に変える」という方針を明確に示し、労働者の意見を聴く機会を設けること。単なる法的義務として対処するのではなく、従業員一人ひとりを尊重する姿勢を見せることが、職場全体のエンゲージメントを高める鍵となります。

明日から始められる小さな安全対策

シニア社員の安全確保と活性化は、一朝一夕に達成できるものではなく、大掛かりな設備投資や制度改定を一度に行う必要もありません。

まずは明日からできる「小さな観察と対話」から始めてみてはいかがでしょうか。例えば、明日出社したら自社の現場を経営者や人事担当者自らの足で歩き、つまずきやすい段差や照明が暗い場所がないかを客観的な目でチェックしてみてください。そして、シニア社員に対して「最近、作業中にやりづらさや危険を感じる場所はありませんか」と声をかけ、現場の生の声を聴いてみることが第一歩となります。

国や公的機関でも、中小企業が転倒防止や健康保持増進のための設備導入を行う際に使える「エイジフレンドリー補助金」などの支援策を用意しています。これらを活用しながら、一つひとつ現場の環境を整えていくことが大切です。

制度や環境の構築は時間のかかる地道な作業ですが、経営陣が現場の安全に向き合う姿勢を示すことで、社内の信頼関係は確実に深まります。もし自社でのリスク評価や制度見直しに迷われた際は、商工会議所や専門家などの公的支援機関に相談してみるのも手です。現場の安全と成長を守る明日への一歩を、ぜひ踏み出してみてください。

関連リンク:人生100年時代の職場の安全と健康~エイジフレンドリー職場を目指して~