世界的な組織心理学者 カール・ワイク (英: Karl Edward Weick, 1936年10月31日 ) が、1995年の「Sensemaking in Organization」論文の中で、「センスメイキング」という概念や視点を組織研究の分野に紹介した。カール・ワイクは「センスメイキング」を理論とは呼んでいないが、ここでは「世界標準の経営理論」(入山章栄著)で解説されている通り「センスメイキング理論」として表現する。

センスメイキングとは

哲学的な背景

センスメイキング理論は「組織のメンバーや周囲のステークホルダーが事象の意味について納得し、それを集約(収束)させるプロセスを説明する理論」である。内容の説明に入る前に、センスメイキング理論の哲学的背景について解説する。

組織の一員(経営者やリーダーなど)を「主体」とする。

市場環境、ライバル企業の動向、顧客動向、取引先、投資家、従業員などを「客体」とする。

センスメイキング理論では「主体」は「客体」の一部と考える立場をとる。つまり、「主体」が意思決定し行動すれば「客体」に影響を与える。「主体」によって認知できる「客体」が異なる。人によって見えるものが違うという、相対主義的立場をとる。

もう少しわかりやすく表現すると、誰もが共有する「絶対的なビジネス環境の真理」はない。さらに、経営者はビジネス環境の一部と考えるから、経営者自身が行動しビジネス環境に働きかければ、環境の認識も変化していく、という立場をとる。

異なる立場は実証主義的立場である。自身とビジネス環境を切り離し「自分が直面しているビジネス環境は、周囲の誰にも同じように見える。したがって、事業環境を正確に分析すれば、普遍的な真実・真理が得られる」とする立場である。

センスメイキングのプロセス

センスメイキングの全体像は、認識の相対主義を前提として、主体(自身・自身のいる組織)と客体(周囲の環境)の関連性についての、ダイナミックに循環するプロセスとしてとらえられる。

プロセスは大きく3つに分けられる

  • 環境の感知
  • 解釈・意味付け
  • 行動・行為

①環境の感知

センスメイキング理論ではどのような環境を想定しているのか

  • 危機的な状況:市場の大幅な低迷、天変地異や企業スキャンダルへの直面
  • アイデンティティへの脅威:自社の事業の強みの陳腐化
  • 意図的な変化:企業の意図的な事業構造転換

2020年に起こった新型コロナウイルス感染拡大による社会環境、経済環境の変化なども感知の対象となる。

②解釈・意味付け

認識の相対主義を前提とするセンスメイキング理論では、人は認識のフィルターを通じてしか物事が見れない。そうであれば、同じ環境でも感知された周囲の環境をどう解釈するかで、その意味合いは人によって異なる。すなわち、この世は意味合いが多様(多義的)になる。

前述の①環境の感知で想定している環境は、「新しく」「予期できず」「混乱的で」「見通しが立てにくい」ため、確かな情報も得られず、経験もないため絶対的な見解を見つけることができず、解釈は多義的になる。

ここで重要になるのが、多義的な解釈の「足並みを揃える」ことである。

組織・リーダーに求められるのは、多義性な解釈の中から特定のものを選別し、それを意味付け、周囲にそれを理解させ、納得、腹落ちしてもらい、組織全体の解釈の方向性を揃えること。

ワイクが2005年に『オーガニゼーション・サイエンス』に掲載した論文で以下のように述べている。

状況が多様に見えるほど、「いま何が起きているか」について納得性の高い感覚がつくられることに努力が払われ、結果として納得性が破壊的な状況を解消し、将来に対する期待を復活させ、プロジェクトを継続させる。(Weick et al.,2005,p.414 入山章栄氏 意訳『世界標準の経営理論』p.424引用)

センスメイキングのコンセプトによれば、正確性よりも、納得性の方が組織に学習を促す継続的な指針になる。(Weick et al.,2005,p.419 入山章栄氏 意訳『世界標準の経営理論』p.424引用)

変化が急激で、これまでの経験が通用しない環境下でのリーダーにはセンスメイキングのコンセプトが必須と言える。

③行動・行為

組織・リーダーは行動して環境に働きかけることで、環境への認識を変えることができる、と考える。

多義的な世界では、「何となくの方向性」でまず行動を起こし、環境に働きかけることで、新しい情報を感知する必要がある。そうすれば、その認知された環境に関する解釈の足並みをさらに揃えることができる。このように、環境に行動をもって働きかけることを「イナクトメント(enactment)」という。

そして、①環境の感知→②解釈・意味付け→③行動・行為→①環境の感知→・・・・を繰り返すことによって「未来をつくり出す」と考えることができる。

センスメイキング理論は2020年のコロナ禍の環境下においても参考にすべき理論である。