- 1947年 サイモン Administrative Behavior(邦訳『経営行動』)
- 1958年 マーチ サイモン Organizations(邦訳『オーガニゼーションズ』)
- 1963年 サイアート マーチ A Behavioral Theory of the Firm(邦訳『企業の行動理論』)
上記3冊はカーネギー学派の金字塔である。経済学の大前提である「人は合理的に意思決定する」に対して、「限定された合理性」という大前提を打ち立て、組織意思決定の体系的な理論モデルを確立した。総称してカーネギー学派の企業行動理論(Behavioral Theory of the Firm)という。
サイモンの「限定された合理性」
認知心理学に基づくカーネギー学派を特徴づける最重要前提は「限定された合理性」である。「限定された合理性」とは、「人は合理的に意思決定するが、しかしその認知力・情報処理力には限界がある」というものである。1947年に発表されたAdministrative Behavior(邦訳『経営行動』)でサイモンが主張する「意思決定の特性」とは以下のようなものである。
- 合理性:与えられた条件下で自身にとって最適な選択肢を求める
- 認知の限界性:認知に限界があるので、意思決定者は事前にすべての選択肢を知り得ない
- 満足度:現時点で認知できる選択肢の中から、とりあえず満足できるものを選ぶ
- プロセスの重視:とりあえず選んだ行動から認知が広がり、新たな選択肢が見え、より満足できる選択肢が見つかれば、そちらを選択する。
組織意思決定の循環プロセスモデル
サイモンの「限定された合理性」に下記2つの概念が加わることで、組織意思決定の循環プロセスを説明することができる。(図表1を参照)
サーチ:認知が限られている組織が自身の認知の範囲を広げ、新たな選択肢を探す行動
アスピレーション:自社の将来の目標水準のこと
図表1の左半分の説明をする。組織がサーチ行動をとれば、認知が広がり選択肢が増えるので、やがて業績が高まることが期待される(矢印①)。業績期待が高くなれば、それは企業の満足度を高める(矢印②)。しかし、満足度が高まると、組織はコストがかかるサーチをしなくなる(矢印③)。これは、組織意思決定者の心理に内在する「成功体験による慢心」を示している。
次に図表1の右半分の説明をする。足元の業績期待の高い組織であっても、そこで満足することなく、さらに高みをめざす組織はアスピレーション(目線)が高くなる(矢印④)。そうなると組織の現実がついていかないため相対的な満足度が下がる(矢印➄)。満足度が下がるとサーチをするようになるので(矢印③)、それが足下の業績向上に貢献する(矢印①)。これは、「うまくいっている時こそ、慢心せず、さらに目線を高くし高みをめざす」ことを示している。
このように、マーチ=サイモンの組織意思決定循環プロセスは、多くの名経営者の「教訓」と合致し、整合性が高いことを理解しておくと良い。