従業員が定着する理由ってなんだろう?

過去4回に渡ってブログの中で、採用できている会社と採用ができていない会社の差について、採用プロセスから統計的な分析を行ってきました。

統計的分析(t-検定)結果によると、選考と定着の2つのプロセスにできている会社とできていない会社の平均値に有意差があることがわかりました。

つまり、簡単に行ってしまうと

「選考」で自社なりの工夫を行い、定着のための取組みを制度的に行っていると自信をもって答えた会社が、「採用に成功している会社」である。

今回のブログでは、働く人の立場に立ち、「なぜ、その職場に定着するのか?」を考えてみたいと思います。

アドラー心理学に学ぶ「そもそも人とは・・・」

「生きるために大切なこと」著者:アルフレッド・アドラー、訳者:桜田直美、発行:方丈社 232ページからの引用

『個人心理学のメソッドはすべて劣等の問題から始まり、劣等の問題で終わっている。すでに見たように、人は「劣っている」という感情があるために、成功に向けて努力することができる。しかしその一方で、劣等感はあらゆる精神的な問題の原因にもなる。(中略)それでは幼少期にはどのような指導を行えばいいのだろうか。すでに見たように、指導の第一の目的は、適切な共同体感覚を育てることだ。健全で有益な目的は、共同体感覚から生まれてくる。社会性を身につけ、社会に適応できるような指導を行えば、だれもが持っている劣等感を正しく活用し、劣等コンプレックスや優越コンプレックスに姿を変えるのを防ぐことができる。社会に適応することは、劣等という問題と表裏一体だ。一人の個人は弱く、劣っているために人間は社会をつくるのである。つまり、共同体感覚と社会的な協力は、個人を救済する役割を果たしているのだ。』

私なりに言い換えると

人が持つ劣等感とは個人の成長には必要な感覚であるが、社会や組織の中で「貢献と感謝」でつながっている感覚が正しく持てないとコンプレックスに姿を変え、精神的な問題の原因にもなる。

つまり、人は「成長意欲を持ち、組織の中で自分の居場所を常に確認している」と思うのです。

人が職場に定着する理由

人は「成長意欲を持ち、組織の中で自分の居場所を常に確認している」という立場に立つと私は以下の3つの理由があるのではないかと考えています。

  • 仕事が面白いか
  • 良い仲間がいるか
  • 会社を信用できるか

それぞれについて解説していきます。

仕事が面白いか?

まずはキャリア形成できる職場なのか、2~3年後の先輩社員を見て、自分の成長をイメージできるかという視点です。そのためには今の仕事が面白くなければなりません。

1970年代のモチベーション理論の研究の中で、モチベーションを高める職務の特性が心理学者によって「職務特性理論」として導かれました。これを参考にするのが良いと思います。

  1. さまざまな能力を必要とすること
  2. その仕事に最初から最後までかかわれること
  3. その仕事が他社の仕事に良い影響を与えること
  4. 自分の裁量で仕事ができること
  5. その仕事の成果を振り返ることができること

まず、組織と仕事の設計段階において、段階的にでも上記の5つの特性を満たすべきであると思います。当然、本人の仕事レベル(等級)に応じて、上記の特性を加えていくことになります。そのためにも上司や先輩社員のアドバイスや指導、マネジメントの影響が大きいことは言うまでもありません。

それ以外にも人事施策でいうと、

  • 技能、職能向上研修
  • 資格取得支援制度
  • キャリアアップ面談
  • FA、オープンチャレンジ制度
  • 副業の容認

なども仕事の面白さに寄与できると思います。

良い仲間がいるか?

新しく組織に加わるメンバーが、組織の役割や知識、規範、価値観などを徐々に理解し、習得し、順応していくプロセスが重要です。具体的には以下のようなプロセスを経るのが良い仲間づくりには良いと思います。

  1. 組織の一員として歓迎の気持ちで受け入れられた
  2. 組織の価値観、行動様式を受け入れた
  3. 仕事の習熟度が上がり、職場での貢献度が上がった
  4. 職場の人間関係が深まった
  5. 目標・成果を共有し、お互いを認め合うことができた(一体感の醸成)

これは「組織社会化」というプロセスで、組織風土を生み出す基盤となります。さらに、以下のような人事施策を組み合わせると有効と思われます。

  • 入社時の導入研修(社長との対話、経営方針、人事総務諸手続き研修、部門ローテーション研修など)
  • カリキュラム化されたOJT研修
  • メンター制度
  • 階層別スキルアップ研修、ハラスメント・ダイバーシティ研修
  • サークル活動

会社を信用できるか?

これは、組織からどれだけ離れにくい状態になっているか?逆の言い方をすれば、組織に対してどれだけ強い約束をしているかです。「組織コミットメント」と言われ、労働契約のことではなく、心理的な約束です。

  1. 規範的なもの:上司に恩義を感じる。職場の仲間に恩義や義理を感じる。
  2. 情緒的なもの:この会社の一員であることを誇りに思う。組織やメンバーへの愛着心がある。
  3. リスク:会社を辞めると生活が不安。失うものが大きい。新たな場所で働くことの不安。

離職を決断する人は、上記3つを捨て去る、乗り越えるほどの心境なので、本人にとっては相当のミスマッチを起こしているか、会社からの裏切りを受けているのではないでしょうか?

信用される会社になるためには、経営層を巻き込んだ長期的な取組みが必要です。

  • 企業ブランドの醸成、成長性の確保
  • 働き方改革、多様な働き方への取組み
  • 給与、賞与、福利厚生制度の充実
  • 公正な人事評価制度
  • キャリア形成のための支援や研修制度
  • 風通しの良い組織風土の醸成

まとめ

  • 仕事が面白いか?
  • 良い仲間がいるか?
  • 会社を信用できるか?


は、人事戦略を検討する際に「働く人の根本的なニーズ」と考えるべきと思います。
この3つのニーズを満たすためには、経営計画がオープンにされ、組織と仕事がうまく設計され、社風を醸成し、嘘をつかない人事制度が必要であることは想像がつくと思います。

但し、そうした中でも、一定数の離職者は出てくるものと思います。それは、自らの決断でキャリアのステージを変え、さらなる成長をめざそうと考える人が出てくるからです。このような方が出てきたら、ぜひ次の質問をしてみてください。


「どのような働く環境があれば、この会社でもう少し頑張ってみようと思えたか?」


この答えは、今後の人事制度や施策の課題とすることができるか素直に考えてみましょう。

私は、この3つのニーズを満たす会社は、定着率の高い会社であると確信しています。
経営層は人事責任者と一緒に、働く人のニーズを満たす日常の仕事になっているかを検証し、従業員の離職率や離職理由を把握する必要があると思います。