人事管理の基本を押さえる(1)
最近、人材の採用や定着にかかわる相談が多く持ち込まれます。しかし、採用や定着での問題は、そこだけに着目して、対策を打てるわけではなく、様々な取り組み(又は放置)の結果として起こっている現象と捉えたほうが正しいと思います。
中小企業にとって「定着」は重要な課題であり、定着がかなわなければ、いつも人不足で、雑な採用活動が繰り返され、今、働いてくれている従業員に対しても悪い影響を与えることが容易に想像できます。
よって、人事に関する相談は、いろいろな要素が絡み合っているので、問題が複雑に感じることが多いです。さらに、人がどう感じているかという「主観」も含まれているので、さらに複雑で難しく感じることが多いと思います。
そこで、人事管理の基本を理論的にしっかりと押さえておくことが、問題を単純化したり、構造的に把握することができる助けになると思います。
学習院大学名誉教授 今野浩一郎(いまのこういちろう)著「マネジメント・テキスト人事管理入門(第3版)」を参考にして人事管理の基本を押さえておきたいと思います。
人事管理の役割
企業あるいは部門が行う「人材を調達し活用する」経営活動が、その企業(部門)の「目標」を達成する方向に向かって効果的に行われるように、また、少ない費用で効率的に行われるように制度を作り運用することである。
人事管理の目標
- 効率的、効果的な人材の調達と活用によって、企業(部門)の「いま」の生産性の向上を図ること
- 変化の激しい経営環境の中で企業が存続、成長するために必要な変化への対応力、つまり高度な知識、能力、スキルをもち、労働意欲やコミットメントの高い「有能な人材」を内部に蓄積する仕組みを整備する
人事管理の構成
- 雇用管理:採用、配置と異動、教育訓練、雇用調整、退職の管理
- 就業条件管理:労働時間、安全衛生の管理
- 報酬管理:賃金、福利厚生、昇進の管理
- 人事評価管理:働きぶりを評価し、その結果を採用、配置と異動、教育訓練、報酬などにフィードバックする仕組みの管理
人事管理の構造
前述の雇用管理、就業条件管理、報酬管理、人事評価管理を階層的に並べると、下図のような構造になります。働きぶりを評価し、その結果を雇用管理、就業条件管理、報酬管理にフィードバックするので、人事評価管理が基盤になることは理解できます。しかし、この図では、人事評価管理のさらに下部に「社員区分制度と社員格付け制度」が位置付けられており、基盤になっている。
社員区分制度
企業には、仕事内容、働き方、キャリアの異なる多様な社員が雇用されています。それにもかかわらず、一つの人事管理の体系(制度)を適用すれば、管理する上で不都合なことが起こります。例えば、正社員とパートタイマーの比較、現役正社員と定年退職後の嘱託契約社員の比較などです。正社員の中でも、転勤や異動がある社員と地域限定社員との比較などです。
このように管理上の効果性と効率性を考えて、異なる人事管理の体系(制度)を適用した方が良いですし、既にこのような制度設計を行われていることと思います。今後、いろいろな働き方が労働市場がら求められることを想像すると、この「社員区分制度」の重要性を再認識する必要があると思います。
社員格付け制度
企業にとって重要であると評価した社員に高い地位と給与を与える。この「重要さ」の尺度を決め、それに基づいて社員のランクを決める制度を社員格付け制度(又は社員等級制度)という。
この企業にとっての「重要さ」の尺度は、企業によって千差万別となります。この「重要さ」に勤続意欲を採用すれば年功的な人事管理により、人事評価管理、雇用管理、就業条件管理、報酬管理が決められるということになります。
よって、社員格付け制度(社員等級制度)は、「会社がどのような社員を必要としているのか、あるいは高く評価するのか」を示す大切なメッセージになるので、採用や教育訓練に影響を与えることになります。
人事評価管理は重要な接続点
以上より「社員区分制度と社員格付け制度」と「雇用管理」「就業条件管理」「報酬管理」を結び付け、経営戦略(経営理念でもよい)の人材面での意思表示をしているのが「人事評価管理」であることがわかります。
「社員格付け制度」、「人事評価管理」ともに、会社にとっての「重要さ」を表現し、社員に対するメッセージになります。その違いは社員格付けの評価の基準を定義し、その基準によって評価の分類を行うことです。
「人事評価管理」が公正に運用されることで、人事管理の全体が効果的に動き出すことになります。中小企業の中では、人事管理の仕組みが精緻に運用されていないことが多いですが、基本を押さえることと、経営層と管理職層で共通認識が得られていれば、大きな問題は起こらないと思います。
人事管理の基本をまず理論的に理解していただければと思います。
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