女性社員の定着について(ある論文からの学び)

2021年9月3日(金)OSAKAしごとフィールド主催『女性活躍・長期定着の視点からの「企業診断」活用法』というテーマでZoomセミナーが開催され、その講師として登壇しました。

改正女性活躍推進法により、令和4年4月より、常時雇用者101人以上の事業主は一般事業主行動計画(女性活躍への取組み計画)を策定し公表することが義務化されるため、旬なテーマでもありました。

得意なテーマではなかったため、様々な資料や書籍に目を通しました。その作業の中で、ひとつの論文に出会い、学びを得ました。セミナーの内容とともに、その論文からの学びをご紹介したいと思います。

女性活躍推進 行政の取組み

行政の女性活躍推進の取組みで、中小企業がどのような影響を受けるのかを考えたいと思います。

令和元年6月に、改正女性活躍推進法が公布され、大きく3つの改正が行われました。

改正前は常時雇用する労働者が301人以上の企業に対する縛りでしたが、改正後は対象企業の規模を雇用する労働者101人以上と拡大し、女性活躍の推進計画(一般事業主行動計画)の策定と公表を義務化しています。
この一般事業主行動計画策定と公表の義務化は来年令和4年4月1日からですが、既に実行されている企業も見受けられます。

301人以上の企業に対しては、さらに高い目標を公表させ、厚生労働省の女性活躍にかかわる認定制度として、「えるぼし」が、これまでは、1つ星から3つ星までであったものが、さらにもう一段階上の「プラチナえるぼし」の認定を追加し、企業に対するインセンティブを与えようとしています。

中小企業への影響

中小企業は女性活躍にかかわる行動計画の策定、公表を義務付けられ外堀を埋められつつあります。

女性といいましても、未婚、既婚、小さいお子様のいるママ、子どもから手が離れつつあるお母さん、中高年女性などさまざまです。

よって、中小企業経営者は、法律による義務化で、仕方なく対応し制度を整備するのではなく、多様な人材がなぜ必要なのか?、経営にどのような影響が出てくるのか?を再点検する必要があると思います。

その次やるべきことは、
目標設定、制度や施策の整備着手することとなります。
具体的には両立支援制度としての育児休業をはじめ、短日勤務、短時間勤務、新たな評価制度など

しかし、ここで疑問が出てきます。
行政に外堀を埋められ、制度や施策を作りますが

本当に女性の勤続意欲は高まるのでしょうか?
他の従業員たちも多様な人材の活用に対して協力してくれるのでしょうか?


これが、中小企業にとって、とても重要なポイントであると考えています。

定着につながるモチベーションとは

そこで、私は「女性定着につながるモチベーション」とは、いったい何だろうと考えるようになりました。

組織行動論の論文を検索し、私の目に留まったのがこの論文でした。

「ダイバーシティ・マネジメントと女性従業員のモチベーション」
https://core.ac.uk/download/pdf/228507896.pdf

「現代ビジネス研究」第12(2019年2月刊行)
山梨学院大学 経営学部経営学科 准教授 林 有珍(いむ ゆじん)

これから述べる内容は、論文を読み、私なりに理解しやすいよう、言葉や表現を変えていますので、本論文を正確に解説したものではないことをご承知おきいただきたいと思います。

論文の概要

【調査サンプルデータ】
インターネット調査 618人
全国の民営企業で働きながら子供を育てている女性正社員
正社員300名以上の企業で働く人の割合 54.7%
25歳~45歳まで(30歳~39歳が77.5%を占める)
関東・中部・近畿地方 73.9%
勤続年数 平均10.37年
両立支援施策 整備(会社)育児休業:92.7% 短時間勤務:70.4%
両立支援施策 利用(人) 育児休業:88.6% 短時間勤務:42.2%

この618人の方々に「両立支援施策」を利用する前と利用した後にアンケートに答えていただき
勤続意思がどう変化したのか統計的に処理し、分析をされていました。

結果は、勤続意思が変わらない人たちと勤続意思が高まった人たちがいました。

一体、どのようなメカニズムで、そうなるかを分析しています。

分析モデル

「ダイバーシティ・マネジメントと女性従業員のモチベーション」 の分析モデルの図

これまでの研究では
「両立支援策のコンセプト」をしっかり立て
「両立支援策」を整備し、利用してもらうことで
「女性従業員の勤続意思が高まる」という流れで研究されていたそうです。

しかし、この論者は「心理的契約」という概念を間に挟み、
心理的契約が「関係的」なれば勤続意思が高まるのではないかと仮説をたてました。

心理的契約とは、労働契約で規定できることを越えて、相互に期待しあう暗黙の了解が成立、作用していることで、
信頼や善意で作用している時は「関係的」といい、
打算的、損得で作用している時は「取引的」と
ここでは解釈をしておいてください。

心理的契約に影響を与える要因として、「両立支援策の利用」だけでなく、
「上司理解」
「組織文化」つまり会社の雰囲気
支援策利用者に対しての「組織サポート」
も加えてアンケート調査が行われました。

分析結果

  • 両立支援策(制度・施策)を整備するだけでは勤続意欲に影響はない
  • コンセプト(意義・一貫性・公正性)の発信と運用(上司理解・組織文化・組織サポート)の両方が関係的心理的契約を強める
  • 制度利用前から関係的心理的契約が成立していないと利用後の関係的心理的契約は強まらない

最後に

最後にまとめをしておきます

  • 国・行政の施策は『目に見えるもの』を求める
  • 会社としては『目に見えにくいもの』の方が重要
  • 具体的には
    TOPメッセージと組織への浸透、上司の理解、職場の雰囲気、組織的なサポート体制、制度利用前からの信頼関係

最後までお読みいただきありがとうございました