若手社員が辞める理由とその対策
最近、面白い本に出合いました。
『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』(著者:離職防止コンサルタント 井上洋市朗氏 発行:秀和システム) です。

大変興味深く読ませていただきました。新卒入社後3年以内に会社を辞めた300人へのインタビューに基づいた生の声がリアルで大変参考になりました。退職した会社は、大企業やベンチャー企業など、それなりに新卒採用ができる会社であると思います。
私の場合、もともと採用に苦労をされている中小企業の中で会社を辞めていかれる方の声を集めているのですが、共通することがたくさんあると感じました。中小企業の人事・採用のお仕事をされている方には、大変参考になると思います。
「やっぱり、そうだよね」と思ったこと
この本のネタバレになってはいけないと思うのですが、「自分の存在そのもの」、「貢献感」、「自身の成長の見通し」に就活の中で心にイメージしたことと、実際入社し働いてみて感じたことにギャップを感じ、そのモヤモヤが蓄積することによって、何かをきっかけにして離職及び転職を決断するのだな、と思いました。
私自身も過去のブログ「従業員が定着する理由って何だろう」の中で、アドラーの個人心理学などを参考にすると、人間の根本的な部分で下記のようなことが言えるのではないかと記述しました。
人が持つ劣等感とは個人の成長には必要な感覚であるが、社会や組織の中で「貢献と感謝」でつながっている感覚が正しく持てないとコンプレックスに姿を変え、精神的な問題の原因にもなる。
つまり、人は「成長意欲を持ち、組織の中で自分の居場所を常に確認している」
このような人間の根本的な部分を押さえたうえで、今の若い人たちが「自分の成長」に対して比較的強い意志を持っているということもこの本の中で気づかされました。これは、日本の社会経済の停滞感や閉塞感から、自分の力を高め、安定して活躍し、収入を得られないと人生の後半部分から大変厳しくなるのではないかという危機感があるのではないか、そのような背景があるから、若い人たちは「成長」にたいするスピードを重視しているのではないかという仮説です。

職場の満足度を説明する二要因理論
これは皆さんもどこかで聞いたり、勉強したことがあると思うのですが「ハーズバーグの二要因理論」です。職場の満足を決める要因には2つあり、その2つの要因は、まったく別の性質を持つという理論です。
- 動機づけ要因:この要因が満たされると満足が生れる
- 衛生要因:この要因が充足しても満足は生まれないが、充足していないと不満が生れる
この本の中でも、この二つの要因を縦軸と横軸にとり、自社がどのポジションに居るのかを気づいてもらうような説明も出てきます。大変参考になります。
賃金(月給・賞与)の水準、年間休日の日数、残業なし、おしゃれな休憩室、確定拠出年金制度など福利厚生の充実は衛生要因に該当します。制度整備の当初は一時的に満足度は上がるかもしれませんが、時間が経てば当たり前となり、満足は生まれないのです。
逆に、動機づけ要因に着目し、仕事に対するモチベーションを高めるために、裁量権を与えたり、1on1ミーテングを実施したりしても、ブラックな職場であれば不満足が爆発します。
つまり、バランスが大切であるということがわかります。

若年層の働くことに対するニーズを把握することが大切
私は、従業員ひとり一人をどこまで理解できるかが、やはり大切であると思います。
それぞれに、今この職場で働くことになった背景や理由は異なります。
誰もが、ピカピカのキャリアアップやキャリア形成を希望しているわけではありません。
ご家庭の都合で、とにかく職場が近いことが大切という方もいらっしゃいます。
他にも、とにかく長く働ける職場、50歳を超えても活躍できると感じれる職場であることが大切という方もいらっしゃいます。
会社は、このようにひとり一人のニーズをまずは理解することを心掛け、定期的な面談を人事チーム主導で行うのが良いと思います。業務の話は一旦脇に置いて、対話をすることをお勧めします。
話を聴いてもらうことは、動機付け要因
「不満を言う人は、普段から話を聞いてもらえていない人」と言われます。日常的に従業員の話を「聞く」ことも大切ですが、しっかりと時間を取って対面で「聴く」ことは、相手に「会社の中での居場所」を確認してもらうことにつながるでしょう。
そして「聴く」ことは立派な動機づけ要因となります。会社の業績に応じて衛生要因となる職場環境や福利厚生への投資はすべきですし、改善にも取り組むべきです。しかし、意外とお金がかからないのが、動機づけ要因である「聴く」という姿勢です。

「聴く」の効果を高めるためには、聴く側の姿勢や心持ちが大切であることは言うまでもありません。中小企業の人事に関わる皆さんは、離職防止の手立てはまだまだあると私は考えています。確かに話を聴けば、それに対して応えなければならないと思うでしょう。でも、お互いの立場が分かり合えれば、共通の課題として労使協力して取り組むこともできるのではないでしょうか。