感情が組織を動かす?

最近、良い本に出合いました。

「すごい傾聴」 著者:小倉広 ダイヤモンド社 です。

小倉広さんの対談動画をPIVOTで見つけ、この本の存在を知ったのですが、心理学の勉強を相当なさっており、その知見を基礎にしたカウンセリングに近い「傾聴」を解説した本だと思ったので、購入し読ませていただきました。

これまで「傾聴」として学んできたことは、技術ややり方に関することが多く、この著書に書かれていたことは「傾聴」の目的についてしっかりと書かれており、特にクライアント、1on1ミーティングであれば部下の思考や行動ではなく、「感情」を理解することに努めることが最大のポイントであることが説明されています。

行動の前には「感情」の積み重ねが・・

7月のオフィシャルブログでは「従業員が定着する理由」をテーマとして取り上げ、「離職」という行動を起こさせないためには、会社はどのように考え、取組めばよいかという視点で解説しました。

この「離職」という行動を生み出しているのは、もちろん「離職する目的」があるからですが、その「目的」をつくりだしたのは、それまでに本人が抱いた「感情」の積み重ねであると考えています。

私は会社を辞める、又は辞めた若い方々の話を直接聴き、集めています。 例えば

【職場の雰囲気】

  • わからないことを質問したとき、「そんなことわからないの」「自分で調べられるでしょう」「後回しにされる」このような空気感がでると、いやな気持になる。相手は、悪気なくそのような対応をしていると思うが。たまにはしょうがないが、何回も続くと質問できなくなり、わからないことがたまってくる。仕事ができなくなってしまい、苦しくなってきた。(20歳代 女性)
  • 社内で居ない人の悪口や陰口が聞こえてきた。いやな気分になった。(20歳代 女性)
  • 私の指導役の方となんとなく波長が合わなくて1ヶ月半でしんどくなった。(20歳代 女性)

【仕事・キャリア】

  • もっとじっくりと取組み、仕事の質を高めたいと思っているが、量とスピードを強く求められ、反論はできないが、違うなと思うことがある。(20歳代 女性)
  • 仕事量が多く、ただ、こなしているだけでスキルが向上してるとは思わない。このまま、仕事を続けていていいのかと思うことがある。(20歳代 女性)
  • 勤務シフトをなかなか決めてくれず、予定が立てられない。イライラした。(20歳代 女性)
  • 入社時の質問で社内起業の制度があると聞いて入社したが、会社業績によりその制度が当面中止になった。(20歳代 男性)
  • お給料が少なく、今年もそれほど増えなかった。これから3年後の見通しが不透明なので不安になった。(20歳代 男性)

このようなさまざまな「感情」が「退職」「離職」という行動に出たきっかけとなっています。

そして、問題なのは、これらの「感情」が組織内(社内)で放置され続け、本人の「感情」が社内で共感されることがなかったということです。

「感情」はどのように生まれるか?

冒頭ご紹介した「すごい傾聴」の313~314ページに「論理情動行動療法」が少し説明されています。

「できごと」そのものが、感情や行動をダイレクトに生むものではない。「できごと」どのように認知、解釈し意味づけるかという、「信念・価値観」「感情」を生む

つまり、会社や組織の中での「できごと」とは、仕事そのものであり、また仕事を行うにあたって生じる人間関係と考えることができる。その「できごと」をどのような「信念・価値観」で認知し意味づけしているかによって「感情」は変わってくるということになる。

信念・価値観の共有・・・上手くできているのだろうか?

私たちの周りでは以下のような言葉が飛び交っています。

  • 価値観を共有し仕事にあたる
  • 価値観に共有してもらわなければ採用できない
  • 同じ価値観をもった人たちだから仕事も上手くいった

私たちは、これまで数十年の人生を生きてきた中で、さまざまな「感情」を抱き、さまざまな「信念・価値観」を自分の中に築いているものと思われます。たぶん、一つや二つではないような気がしますし、自分でも気がついていないものがたくさんあるのだと思います。

この極度に抽象化された「信念・価値観」を言語化し、掲げ、お互いに確認するだけで共有できたといえるのでしょうか?共有できているのであれば、組織は、人間関係で問題を起こさず、より良い方向に動いていくことでしょう。しかし、現実はそうでないことが多い。間違いなく、信念・価値観の共有は上手くいっていないのだと思います。

もっと感情にフォーカスしてみれば・・・

この「すごい傾聴」を読んで閃きました。

組織をスムーズに動かすためには、会社で働く人々一人一人の「感情」にフォーカスし、「感情に共感」することから始めればよいのではないか?

仕事を進める上での論理や思考は、一旦、脇に置いて、日々の仕事や人間関係の中でどのような「感情」を抱いているのかを、相手の立場に立ち「共感」することを大切にしてみてはどうだろうか?

ある「できごと」に対して生まれた「感情」が「共感」されれば、それぞれが持ち合わせている「信念・価値観」が理解できるようになり、「もしかして、あなたは『○○を大切にしてXXしている』のでしょうか?違っていれば教えてくださいね?」と確認し合えるのではないでしょうか。

偏った思い込みに気づける効果も期待できる

私たちは、仕事をしていく上で、個人も組織も学習し、関係性の質を向上させ、思考の質を高め、行動の質を高めて、成果を上げていく必要があります。(小田理一郎著「学習する組織」入門の中のことば)

この学習を阻害する要因が、勝手な思い込みや偏った思い込みであることがほとんどだと言われています。また、人間は、外から変えられることに対し強く抵抗し、自分で気づいたことであればすぐに自分を変えることができます。

先ほどの、「感情」にフォーカスし、「もしかして、あなたは『○○を大切にしてXXしている』のでしょうか?違っていれば教えてくださいね?」と確認し合える関係が築ければ、自分の勝手な思い込みや偏った思い込みに気づける可能性が高くなります。組織の中で、この気づきが増えれば増えるほど、人間関係における信頼感や安心感が醸成され、より安定した組織がつくられるのではないかと最近、強く考えるようになりました。

今後、このような視点で、クライアントの組織を観察したいと思います。