70歳雇用推進プランナーになって3年目に思うこと

2021年4月より、独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構より「70歳雇用推進プランナー」の委嘱を請け、2年半が経とうとしています。

相談助言や提案で訪問した企業の数も延べ100社に近づいてきました。

70歳雇用推進プランナーとは

令和3年4月1日より改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。

人口統計によると、今後、生産年齢人口(15~64歳人口)は減少の一途をたどり、若年者を採用することは困難になっていくことが予想されています。

また、国の経済・財政の視点から見ても、高齢者が70歳まで働き、年金支給にうまく接続されることも国の政策課題です。このような背景から、高年齢者雇用安定法、雇用保険法の改正が行われています。

このような外部環境に適応していくことを考えたとき、企業は「高齢者の雇用」を戦略的課題として捉え、ポジティブな経営資源としていくことが望まれます。

この「高齢者の雇用」を戦略的課題と考えたとき、企業の状況ごとに、さまざまな取組課題が浮き彫りとなります。これらの取組課題に具体的にアプローチし相談対応や助言、提案を行うのが独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「70歳雇用推進プランナー」です。

現地ヒアリングや相談助言の現場で気がつくこと

訪問させていただいているのは常用労働者数21人以上の中小企業となり、業種も製造業、建設業、運輸業、卸売業、サービス業、医療・福祉関係とさまざまです。

訪問した延べ100社の就業規則だけを確認させていただきますと、「60歳定年で希望者全員65歳まで継続雇用」又は「65歳定年」がほとんどです。

しかし、実態は65歳超の従業員のみなさんが活躍されています。

つまり、運用(慣例)で、雇用契約を結ばれている場合がほとんどです。

また、65歳超の従業員の皆さんの働き方は、フルタイム勤務の場合もあれば、週3日勤務であったり、1日6時間勤務であったり、会社側と働き手側が話し合いながら、柔軟に対応されていることがわかります。

就業規則を実態に合わせていく見直しさえ図っていただければ、改正高齢法に対応することができるのでとても残念に思います。

「会社が認める者を70歳まで雇用・・」という表現

さらに、残念に思うことがあります。

改正高齢法の主旨に沿った就業規則の改訂に既に取り組んでいる企業もありましたが、就業規則の条文の細部を確認させていただくと「会社が認める者を70歳まで雇用・・」「健康診断結果、就業意欲など本人と協議し、会社が必要と認めた者を70歳まで雇用・・」という表現になっている場合があり、実は改正高齢法の主旨に沿っていないケースも数件ありました。

この「会社が認める者」という表現は、裏を返せば「会社が認めない者」は雇用しなくてもよいということになり、特定の従業員を恣意的に排除できることにつながるからです。

よって、高齢従業員からみても、どんな基準を満たせば65歳超でも働けるのかを、具体的客観的に予見できることが大切です。

この基準を何にするかは、健康診断の結果、人事評価の評点、出勤率、服務規程違反など様々ありますが、労働組合や労働者の過半数と十分協議して決めるのが良いとされています。

70歳までの就業機会の確保(努力義務)の意味するところ

令和3年4月の改正高齢法が求めているのは、「70歳までの雇用」ではなく「70歳までの就業機会」です。

勘違いされている中小企業の総務・人事責任者の方が多いのですが、改正高齢法に対応すべく就業規則を改定してしまうと、70歳までの雇用が義務付けられてしまい、組織の若返りが難しくなり、総人件費のコントロールも難しくなると考えています。

しかし、決してそうではありませんので、正しい理解をしていただきたいと思います。

希望者が65歳までの就業を終えるタイミングで、さらに70歳まで働く場や働き方の機会が高齢従業員にわかりやすく提供されているかどうかが重要となります。

よって、企業側は、高齢従業員を経営のどのような場面に活躍してもらうのかをしっかりと検討した上で70歳までの就業のチャンスを準備し、制度として整えておくことが求められています。

3年目で思うこと

70歳雇用推進プランナーの3年目で、思うところを箇条書きにしてみます。

  • 現在60歳定年としている会社の場合、無理をして定年年齢を65歳にすることを検討しなくても良いと思います。退職金制度の見直しも同時にしなければならなくなります。正社員と同様の活躍を期待し、賃金水準も維持してあげたいという考えだと思いますが、継続雇用制度でも同様の運用は可能です。
  • 60歳~65歳、65歳~70歳、70歳~で、仕事内容(期待・役割)、担える業務負荷、責任の重さ、労働時間(勤務日数や勤務時間)は変わります。高齢従業員となる皆さんと十分話し合い、選択肢(基本パターン)を整理しておくべきです。またその選択肢(基本パターン)毎の賃金水準を合理的、理論的に説明できるようにすべきです。
  • 何歳になっても、働いている以上は会社に貢献する必要があります。そしてその貢献度合いを言葉にして、高齢従業員のみなさんにフィードバックし、評価し、処遇に反映すべきと思います。処遇の仕方は、賞与支給のタイミングで、金一封や寸志のような形でも良いと思います。何歳になっても、自己効力感と組織への貢献と帰属意識を醸成するような取組みは続けるべきと思います。なぜならば、「嬉しい」「楽しい」感情が仕事の中で生まれるからです。

高齢従業員の雇用延長や採用をご検討されている方のご参考になれば幸いです。