センスメイキング理論と勇気

最近、「センスメイキング理論」というものを自分なりに理解しました。この「センスメイキング理論」という言葉自体は、2つの書籍で目にしました。1冊目は『直感と論理をつなぐ思考法』(p.140 ダイヤモンド社 佐宗邦威著)、そしてもう1冊は『世界標準の経営理論』(p.416 ダイヤモンド社 入山章栄著)です。

この2冊の本は、私に少なからず影響を与えています。

『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社 入山章栄著)の解説を一部引用しながら、まず、「センスメイキング理論」の説明をしたいと思います。

センスメイキング理論とは

最初に結論から言うと、「経験したことのない、予期することのできない外部環境下で、自分の思い(ビジョン)を現実に近づけていくためのプロセスを説明した理論」です。

以下に順を追って少し詳しく解説します。

哲学的な背景

センスメイキング理論は「組織のメンバーや周囲のステークホルダーが事象の意味について納得し、それを集約(収束)させるプロセスを説明する理論」である。内容の説明に入る前に、センスメイキング理論の哲学的背景について解説します。

組織の一員(経営者やリーダーなど)を「主体」とする。

市場環境、ライバル企業の動向、顧客動向、取引先、投資家、従業員などを「客体」とする。

センスメイキング理論では「主体」は「客体」の一部と考える立場をとる。つまり、「主体」が意思決定し行動すれば「客体」に影響を与える。「主体」によって認知できる「客体」が異なる。人によって見えるものが違うという、相対主義的立場をとる。

もう少しわかりやすく表現すると、誰もが共有する「絶対的なビジネス環境の真理」はない。さらに、経営者はビジネス環境の一部と考えるから、経営者自身が行動しビジネス環境に働きかければ、環境の認識も変化していく、という立場をとる。

センスメイキングのプロセス

センスメイキングの全体像は、認識の相対主義を前提として、主体(自身・自身のいる組織)と客体(周囲の環境)の関連性についての、ダイナミックに循環するプロセスとしてとらえられる。

プロセスは大きく3つに分けられる

  • 環境の感知
  • 解釈・意味付け
  • 行動・行為

①環境の感知

センスメイキング理論ではどのような環境を想定しているのか

  • 危機的な状況:市場の大幅な低迷、天変地異や企業スキャンダルへの直面
  • アイデンティティへの脅威:自社の事業の強みの陳腐化
  • 意図的な変化:企業の意図的な事業構造転換

2020年に起こった新型コロナウイルス感染拡大による社会環境、経済環境の変化なども感知の対象となる。

②解釈・意味付け

認識の相対主義を前提とするセンスメイキング理論では、人は認識のフィルターを通じてしか物事が見れない。そうであれば、同じ環境でも感知された周囲の環境をどう解釈するかで、その意味合いは人によって異なる。すなわち、この世は意味合いが多様(多義的)になる。

前述の①環境の感知で想定している環境は、「新しく」「予期できず」「混乱的で」「見通しが立てにくい」ため、確かな情報も得られず、経験もないため絶対的な見解を見つけることができず、解釈は多義的になる。

ここで重要になるのが、多義的な解釈の「足並みを揃える」ことである。

組織・リーダーに求められるのは、多義性な解釈の中から特定のものを選別し、それを意味付け、周囲にそれを理解させ、納得、腹落ちしてもらい、組織全体の解釈の方向性を揃えること。

変化が急激で、これまでの経験が通用しない環境下でのリーダーにはセンスメイキングのコンセプトが必須と言える。

③行動・行為

組織・リーダーは行動して環境に働きかけることで、環境への認識を変えることができる、と考える。

多義的な世界では、「何となくの方向性」でまず行動を起こし、環境に働きかけることで、新しい情報を感知する必要がある。そうすれば、その認知された環境に関する解釈の足並みをさらに揃えることができる。このように、環境に行動をもって働きかけることを「イナクトメント(enactment)」という。

「勇気」の理論

私は最初、この理論を知った時、組織の中でリーダーシップを発揮するための理論であると思ったのですが、深く考えると、個人(一人ひとり)の「勇気」を強化し、具体的な行動に結び付けるための理論であると考えるようになりました。

インターネットなどで、誰にでも入手できる情報やデータを集め、精緻に分析して外部環境を、あたかも客観的に表現したとしても、それは分析した人や感知した人の認知バイアスを通して表現されたものです。

ありのままの現実を解釈し、意味付けし、それを自分の言葉、自分の物語として周囲に語りかけることこそが納得や腹落ちとなり、行動することの「勇気」に結び付くのではないか、そのような感覚を持っています。

①環境の感知→②解釈・意味付け→③行動・行為→①環境の感知→・・・・を繰り返すことによって、その人の視座が高く、広くなっていくと思います。そうすると、このセンスメイキング理論は「自らが考えた未来をつくり出す」ために活用することができると考えるようになりました。。