経営者が考える投資の優先順位と人への投資

年度末の振り返りと経済への期待感

2025年度の年度末を迎え、行政や学校、そして多くの企業が本決算に向けて慌ただしく動き、様々なことが一つの区切りを迎えようとしています。
私のような個人事業主にとっても、12月末が期末となるため、今はちょうど確定申告の時期にあたります。昨年と比較して今年度の業績はどうであったのか、また、この一年間で新たな知見はどれだけ積み重なったのかをじっくりと振り返る大切なタイミングです。そのような意味でも、3月は自身の現状を再確認し、4月から始まる新たな事業年度の動き出しに対して、しっかりと手が打てているかを点検する準備の時期と言えます。

一方、社会全体に目を向けると、2026年1月からは政府与党の体制も大きく変わり、日本の株高に代表されるように、経済に対する期待感がこれまでになく高まっているように感じます。国が掲げる新たな経済政策、特に「成長投資」や「挑戦」を促す具体的な姿は、6月頃にまとまるとされている「骨太の方針」が発表されてから、より解像度が高くなっていくのだろうと予想しています。前向きな機運が高まる中で、企業はどのように舵取りをしていくべきかが問われています。

エコノミストと経営者の視点の違い

前向きな経済政策が期待される中、必ず議論に上がるのが企業による「投資」のあり方です。事業を成長させるための投資には、自前の資金を活用する方法もあれば、レバレッジを効かせて金融機関から融資を受け、より大きな規模で投資を行う方法もあります。

しかし、いざ投資を決断するとなると、経営者や事業責任者の頭の中には「もしこの投資が数年後に想定通りの利益を生まなかったら、一体どうなってしまうのだろうか」という強い不安がよぎります。


YouTubeなどのメディアに出演するエコノミストの方々は、「日本企業は投資が少なすぎる」と指摘することがよくあります。マクロ経済の視点からは正しいのかもしれません。しかし、現場で会社を守る経営者は、決して安易な失敗をしたくないのです。なぜなら、利益を生まない事業があとに残すのは、人件費を含む固定費の増加、そして借入金の返済や利払いといった、すべてのキャッシュアウト(現金の流出)につながる重い負担だからです。それは、長年苦労して積み上げてきた純資産(利益剰余金)をあっという間に食い潰すことを意味します。これらの厳しい現実を理解しているからこそ、経営者が投資に対して慎重になるのは当然のことと言えます。

中小企業における投資の優先順位

では、リスクを抑えつつ成長を目指すための投資はどうあるべきでしょうか。私は、投資には明確な優先順位を設けるべきだと考えています。

第一の優先順位は、「労働時間や作業時間を減らすための投資」です。いわゆる業務効率化や省力化です。

第二は、「いま提供している商品やサービスの品質を高め、顧客提供価値を向上させるための投資」です。

そして第三が、「顧客をどの程度のペースで、どれだけ増やすかという目途を立てた上での、顧客開拓のための投資」です。

特に第三の新規開拓や、未知の経験のない分野への挑戦においては、自社単独ではなく、価値観を共有できるパートナーと連携し、いざという時の撤退コストをあらかじめ意識しながら投資することが重要です。

私自身の事業に当てはめてみると、第一と第二の優先順位に該当するのは「AI(人工知能)への投資」です。AIを活用して作業時間を減らしつつ、アウトプットの質を高めています。そして第三の優先順位として、将来のクライアント像をイメージし、新しい出会いを求めてイベントや交流の場に積極的に出向いています。
実は、これらは会計上の仕訳で見れば、貸借対照表に計上される「投資(資産)」ではなく、損益計算書上の「費用(ランニングコスト)」として処理されるものです。

費用を人的資本に変え収益を生む

しかし、会計上は「費用」として処理されるものであっても、そこから得られた学びや経験は消えてなくなるわけではありません。これらの費用を投じることで得られた知見は、確実に人の技能やノウハウとして蓄積されていきます。私は、これこそが将来の収益を生み出す「人的資本」への投資であると解釈してよいのではないかと考えています。

これは、無形サービスを提供する私のような業種に限った話ではありません。例えば製造業の場合、第一の優先順位である「作業時間を減らす投資」は、設備の導入になるでしょう。しかし、その高度化された設備を導入しただけで勝手に生産性が上がるわけではありません。設備を適切に稼働させ、その性能を最大限に引き出すためには、それを扱う「人」に対する投資(教育や訓練)が不可欠になります。

今後の企業経営において最も問われるのは、この「人への投資をどのように収益に結び付けるか」、そして「その効果をどのように測るか」という点です。新しい設備への投資効果を計算するように、自社の従業員という人的資本への投資がどのような成果をもたらしているのか。その仕組みづくりや指標化が、これからの人事・経営戦略の大きな鍵になると信じています。