人は人の行動を変えることができない!?
最近、クライアントのベテランのご担当者(Aさん)から下のようなご相談がありました。(愚痴のようなご相談です)
- 一緒に仕事をしている年下メンバー(Bさん)の仕事ぶりが、顧客に対する優しさや配慮が足りないことで、気にかかり、Aさんは、Bさんに対して言葉を選びながら慎重に、行動を改めるようにアドバイスをしました。
- 少し嫌な顔をされたような気がするが、聞き入れてくれた。しかし、Bさんの行動が、Aさんの思うレベルまで改まることはなかった。
- Aさんは、Bさんから少し嫌な顔をされ、行動もそれほど変わらないため、たいへん嫌な思いをしたし、言わなければよかったと罪悪感も感じてしまった。
- やっぱり、人って考え方が違うと、言っても分かってもらえないのかな・・・(Aさん困惑)
- でも、そのまま放置しておくことは、とても気になり、何とかしたいと思ってしまう・・・(Aさん困惑)
ざっと、このようなご相談でした。日常的に起こりうるシーンですが、当事者(Aさん・Bさん)にとってはストレスが溜まる出来事であると思います。
これまでの経験や知見を活用し、このブログの中でどのように対処すべきか検討してみたいと思います。
「アドラー心理学」の考え方を参考にすると
「仕事のタスク」
本件に関しては、Aさんが課題の分離を行い、そこでトラブルが発生してもBさんの課題と切り離しても、Aさんの困惑やストレスは解消しないでしょう。
アドラーは人生の3つのタスクとして、「仕事のタスク」「交友のタスク」「愛のタスク」を挙げていますが、今回は「仕事」に関わる人間関係の問題となります。
アドラーは「仕事」の人間関係の問題は、「交友」や「愛」よりもずっとハードルが低いと考えていると思います。「仕事」での人間関係とは、組織の目的・目標を達成するための役割分担、作業分担の関係と捉えています。つまり、勤務時間が終われば、その人間関係から離れることができるから、人間関係の問題としてはハードルが低いわけです。
つまり、上記の相談に対する回答としては、組織の目的・目標をメンバーでしっかりと理解し、その上で役割分担、作業分担を行うことが必要です。この役割分担、作業分担はメンバー個人の課題と言い換えることもできます。この個人の課題が解決されることが、組織の目的、目標の達成に結び付いているということを、日々擦り合わせすることも、リーダーの役割になり、リーダーの課題となることでしょう。
このリーダーの課題の中には、組織の目的・目標に沿った「行動指針」「スローガン」の策定も含み、日々の行動のよりどころとなるものであれば尚良いと思います。
劣等コンプレックスと目的論
もう1点、Bさんの感情表現に注意を払い、コミュニケーションの糸口を探る方法もあると思います。
Bさんが周り対して、どのような目的を持って、その感情表現を選択しているか?を注意深く観察することです。年上の先輩からアドバイスを受けた時に「不機嫌な表情」をした。「モノに八つ当たりするような行動」をした。これは、何かに劣等感を持っていて、それを隠すための行動であると思います。過去の自分に嘘をつくために「感情」や「行動」を選んでいると考え観察し、Bさんの価値観にそっと触れるような会話をしてみる方法もあるかもしれません。Bさんは、職場で受け入れられている感覚が小さいのかもしれません。自分が受容された、共感された、という感覚がもう少し芽生えれば、Aさんからのアドバイスを受け入れる許容度が広がる可能性があります。
ピーター・M・センゲ「学習する組織」を参考にすると
この著者の中で、人は変えられることに抵抗する。しかし、自ら進んで変えることはできる。よって、自ら気づき、選択できる状況が作れれば良い。と言っています。
そのためにも、お互いがお互いのことを理解したり、考え方の違いに気づくような「対話の訓練」が必要であると付け加えています。
メンタルモデルを意識する
私たちは、状況を解釈し、行動するときは、頭の中ですでに「決めつけ」ています。これがメンタルモデルです。いわゆる、思い込みや先入観、バイアスと言ったものです。
上記の相談の例で言うと、AさんはBさんを「○○のような考え方をする人」と前提を持ち始めていると思います。また、BさんもAさんを「○○な人」と前提を持ち始めているでしょう。
日々の行動や会話から、自分の思い込みに合致している情報ばかりを取出し、やっぱりBさん(Aさん)は「○○のような考え方をする人」という考えを強めている可能性が高いです。
このようなメンタルモデルを回避するためには、「本当にそうなのか?」と疑いながら、その人の周りで起こる現実・事実をじっくり観察することです。そしてゆっくりと解釈し、意味づけすることが重要です。また、自分自身を振り返り、自分の言っていることと、実際やっていることが異なっている場合もあることに気がつくことも重要です。例えば、「私はチームメンバーで話し合いたいと思っている」しかし実際は「話し合っても理解してもらえない人が居るから話し合えない」と考えているケースです。自らの行動を変える気づきがそこには潜んでいます。
チーム学習に挑戦する
著書の中で、チームで一緒に探求、考察、内省を行うことで、自分たちの意識と能力を共同で高めるプロセスをチーム学習と説明しています。
チーム学習には4段階のレベルがあります。
- レベル1:儀礼的な会話
↓ 自分のメンタルモデルを意識し、対話に持ち出さない!
- レベル2:討論・意見の不一致を良しとする
↓ 視座の転換。相手の立場や気持ちで考える努力をする!
- レベル3:内省的な対話、謙虚に話す、相手の意見の背景や感情まで理解するような聴き方
↓ これまでの対話を一旦手放し、新しいコンセプトで分かり合えると信じる!
- レベル4:生成的な対話、新しいコンセプトを模索する話し方、自分の立場に囚われない聴き方
ここでの注意点は、1回や2回ミーティングするぐらいでは、レベル4までは到達しないということです。意見の不一致やお互いのメンタルモデルへの気づきなどを経て、新たな視座に転換できるよう努力することが重要だと思います。
まとめ
「アドラー心理学」「学習する組織」を参考に、冒頭の相談に対する回答を模索してまいりました。
いずれの方策を実行するにしても、AさんとBさんの対話は避けられないようです。しかし、1対1の対話ではなくチーム(複数人)でのミーティングの中であれば、もう少し話しやすくなるのではないでしょうか?
最後に、冒頭の相談に対する方策を箇条書きにして終わりたいと思います。
- 組織の目的、目標を明文化する
- 組織の目的、目標に向けた役割分担を話し合う
- 共通して「大切なこと」とリーダー、メンバーの取組課題を明確にする
- 一切のメンタルモデルを保留し、人や行動に新たな解釈や意味づけを心掛ける
- 謙虚に、お互いの意見の背景や感情を理解しようという気持ちで対話する。
もう一度、相手を信じて、対話を試みることを期待しています。
しかし、AさんがBさんと対話を試みる意思がないのであれば、「顧客や組織に発生するリスクを想定し、リスク回避の対策だけを検討しておくこと」も相談に対する方策の一つであると思います。時間を置けば、対話のタイミングがまた出てくることもあると思います。
以上