採用できている企業と採用できていない企業の差 計画編(1)

大阪府の就業支援施設OSAKAしごとフィールド中小企業人材支援センターが提供している採用力の課題を可視化するツールとして「採用力診断ツール」を2022年の秋からホームページ上で提供しています。

私も本ツールの基本設計のお手伝いをさせていただきました。

運用して約1年7カ月経過し、2000社を超える企業に自己診断をしていただきました。蓄積されてきたデータを使って、採用できている企業と採用できていない企業の差を統計的に見ることはできないか考えてきました。

そして2024年1月に従業員規模に関係なくすべての受診企業の中から、採用に成功した企業(注)405社、採用に成功していない企業1175社の受診データを分析する機会を得ましたので、その分析結果について、何回かに分けて、本ブログに投稿してみようと思います。

(注)採用成功企業の定義は、「1年間での募集数≦採用数 かつ 1年間での離職者数≦採用数×10%」としました。

採用力診断ツールのコンセプト

採用力診断ツール(以下、当ツールという)は、大阪府下中小企業が労働市場から自社に合った人材を採用するために、「どのようなプロセスや視点から採用活動に取り組むべきか、また、そのためにどのような準備をすればよいか」を考えるヒントを見出すことができるツールとして基本的な設計を行いました。

当ツールでは、中小企業がチェックリスト形式の20個の設問に回答することにより、自社の採用活動の内容や程度を確認することができます。当ツールを活用することによって得られるメリットは3点あります。

  • 採用プロセスである「計画」「募集」「選考」「定着」のそれぞれに5個の設問、合計20問に対して「できていない」(1点)~「できている」(4点)で企業に回答してもらうことで、現在の自社の取組み状況を企業自身に意識してもらい、採用活動を進めていく上での課題を数値化することができます。
  • 20問の回答をもとに作成された点数と同従業員規模の企業が回答した平均点、同業種の企業が回答した平均点とを設問ごとにレーダーチャートや表形式で視覚的に比較することができます。このことにより、客観的に現状を把握し、自社の取組みが進んでいる項目と進んでいない項目を認識することができます。
  • さらに、当ツールに回答した中小企業の中で、①募集人数を充足できている②入社してから一定期間離職がない、などの条件を満たした企業を「採用成功企業」と定義し、その企業が回答した設問ごとの平均点とも比較することができます。このことにより、上記で認識した取組み項目の中で、今後進めるべき取組みの優先順位を確認することができ、取組み方針をより明確にすることができます。

統計的分析の方法 t-検定:2つの標本(平均値)に有意差が認められるかの分析

どのような統計的分析が可能か自分なりに検討した結果、採用力診断の20設問ごとに、採用成功企業の平均値と採用不成功企業の平均値との間に有意な差が認められるかを確認するのが適当と考え、t-検定(分散が等しくないと仮定した2標本による検定)による統計的分析を行いました。

t-検定は、Excelで簡単に分析することができます。

t-検定とは、簡単に説明すると、2つの標本、ここでは採用成功企業405社と採用不成功企業1175社の2つのグループの平均値の差に有意な差があるかどうか判定し、一定の結論を出そうとする分析手法です。

「有意な差」とは、確率論的に、たまたま出た差ではなく、「意味のある差」である可能性が高いということです。個々の分析では、その「たまたま出た差」が出る確率が5%以下であれば「有意な差」があると判定しています。

t-検定についてご存じでない方もいらっしゃると思いますが、YouTubeで解説動画がたくさんアップされていますので、自習していただければと思います。私は、田中嘉博さんの「【実践編①】t検定:難しい数式と専門用語を使わない統計学シリーズ」を視聴し勉強させていただきました。

「計画」t-検定の結果 平均値に有意な差があったのは「協力体制」のみ

「計画」の5つ質問の詳細は、先に述べた採用力診断ツールのコンセプトでご確認頂きたいのですが、質問項目は「採用計画」「採用形態」「人物像定義」「人材多様化」「協力体制」の5つです。

採用に関わる「計画」のフェーズにおいて、私は重要な取組み項目であると考えていた「採用計画」「採用形態」「人物像定義」「人材多様化」「協力体制」の中で、採用できている企業と採用できていない企業の差として、「意味のある差」は「協力体制」だけであるという検定結果がでました。

「協力体制」の採用成功企業405社と採用不成功企業1175社の2つのグループの平均値の差において、「たまたま出た差」が出る確率が0.009%で検定基準としている5%よりも圧倒的に小さいことがわかりました。明らかに、この差は意味のある差であるということです。

ちなみに他の質問項目ではどうかと言いますと「採用計画」15%、「雇用形態」32%、「人物像定義」10%、「人材多様性」13%であり、「たまたま出た差」が出る確率が5%よりも相当という結果がでました。

採用活動での社内協力体制を振り返ってみてください

求人内容の作成や求職者への会社説明会などの採用活動を、採用担当部署だけ
ではなく、人材を必要とする部署の協力を得て行っていますか?

1: 協力を求めていない
2: 協力を求めているが、あまり協力が得られていない
3: 協力を得られている
4: 積極的な協力が得られている

採用活動で期待する成果が得られていない会社の経営層及び人事責任者の皆さまは、上記の質問を振り返りすぐに行動に移していただければ、さらに組織コミュニケーションなどの新たな課題が見つかる可能性もあるのではないでしょうか?

次回は「募集」フェーズにおける、t-検定の結果について投稿します。

投稿が待てない方がいらっしゃればOSAKAしごとフィールド中小企業人材支援センターにお問い合わせください。

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