大きな設備を持たない中小企業の「投資」について思ったこと

最近、生産設備や店舗を持たない中小企業の財務分析をしていて、改めて思ったことを投稿したいと思います。

上場企業は、顧客への価値提供や社会への貢献を通じて、売上、利益を増やし、一定の配当を行い、株価を上げていくことが目的の一つになっていると思います。

しかし、資本と経営が一致している中小企業経営は、事業売却を目的としている場合は別として、自社の株価を上げることは目的としていないと思います。

それよりも、安定した業績を継続し、従業員や従業員の家族、取引先に儲けの一部を還元することを考えているのではないでしょうか。

償却資産をあまり必要としない業態

中小企業の「投資」と言えば、工場の増築や新しい設備の導入、新しい店舗出店等をイメージしますが、卸売業や労働集約的な業態は、大きな設備は特に必要としませんので、設備投資は少ないと思われます。

これらの企業は、運転資金が余裕をもって回っていれば、大きな借入金で、設備投資をする必要がありません。あったとしても、器具、工具、サーバーやパソコンのリプレイスやソフトウエアの導入というところです。さらに、一定の限界利益を確保できるビジネスの仕組みが確立していれば、安定して利益を計上することができます。

このような企業は、利益剰余金が毎年積み上がり、自己資本比率が高まり、現金預金が厚くなってゆきます。つまり、利益剰余金が固定資産に形を変えることなく、現金預金が増える構図です。

経営者や経理責任者は、自己資本比率が毎年高まり、現預金を蓄積することで、落ち着いて、安心した経営が行えていると思います。

何に投資すればよいかわからない

一方では、現預金の厚い、安全性の高い財務諸表を目の前にし、何に投資すべきかわからないとお話される経営者もいらっしゃいます。これは、経営者が、何も考えていないのではなく、やりたいことはあるが、何のために投資するのかを絞り込めず、また、社内のシステムを刷新しようとすると、混乱や停滞を招く恐れがあるため、人材確保や人材育成をセットで考えないといけないと思っているからです。

いずれにしても、計上した利益の中から、一部を会社の業務プロセスの改善や働きやすい職場環境(制度)改善のための投資や投資額を明確にし、言語化しておく必要があります。

いくらまで投資できるのか?

設備投資額の基本は借入金に頼るのではなく、営業キャッシュフロー(以下 営業CF)に納まるように設定する必要があります。営業CFとは営業活動で増えた現金のことです。もし、借入金の返済や自己資本充当そして従業員への還元の必要があるのであれば、(設備投資額+借入金返済額+利益剰余金充当額+従業員還元額)≦営業CFとして考えます。

このようにして、営業CFをベースにして、考えれば使える予算が明確となり、どの程度の取組みが可能なのかも明確になります。

もっと簡易的な方法として、税引き後の当期利益見込み額を3等分し、投資額・利益剰余金充当額・従業員賞与として計算してみる方法もあります。

このようにして、投資額の目安を算出することで、安定経営を継続しつつも、会社の将来のために「これだけの投資をしなければならない」と前向きな経営に意識を変えることができるのではないでしょうか。

どのような投資が考えられるか?

償却資産をあまり必要としない業態の投資内容の候補を挙げてみます。但し、有形固定資産ではなく、ソフトウェア資産、リース資産、クラウド利用料、人件費、その他経費で賄えるものとなり、資産に計上できないものもあります。

以下に挙げる項目は、外部の支援者の協力を得ながら、しっかりと自社に合う投資内容を吟味し、計画を立てることが必要になるものばかりです。しかし、これらの投資は、自社を次のステージに引き上げるために大切なものであると思います。

人材育成投資(資産ではなく費用)

  • 階層別研修の策定と研修実施
  • 資格取得支援制度

DX投資(ソフトウェア資産又は費用)

  • 営業DX(顧客開拓の仕組み、提案力の向上、顧客情報の共有、利益率の向上等)
  • バックオフィスDX(経費精算業務の効率化、社内決裁承認業務等)
  • 働き方DX(テレワーク導入、勤怠管理の効率化、フレックスタイム制の導入)

認証制度取得のための投資(取得のための諸経費)

  • 情報セキュリティ関連(ISO、プライバシーマーク)
  • 両立支援制度認証(女性活躍、くるみん等)
  • 経済産業省、府県の認証取組み

HRM(Human Resource Management)投資(採用経費と人件費)

  • 専任者の採用と継続雇用(採用と従業員教育を担当)

以上のように、社内の既存人材だけでは進めにくいものがほとんどです。外部の支援者の活用も投資と位置づけて考えることが大切ですし、私のような支援者は、クライアントの大切な利益の一部を投資として活用していると認識し、成果を上げることにも拘る必要があると思います。

投資後のリターンも考えておく

上記にあげた投資(経費)項目について、投資として考える以上、リターン(成果)目標を決めておく方が良いと思います。理論的に言えば、投資に対して営業CFがどれだけ見込め、何年で回収できるかを計算することになります。売上高増によるCF増なのか、利益率UPによるCF増なのか、時間外労働低減による営業CF増なのか等を明確にしながら投資(経費)項目に対して取り組むのが理想的です。

中小企業の皆さまにとっては、難しい取組みと思いますが、目的やリターンを意識して、大切な利益の一部を使うことで、経営が大いに前向きになると確信しております。

以上