シングル・ループ学習からダブル・ループ学習へ
ピータ・センゲ著「学習する組織」、小田理一郎著「『学習する組織』入門」をあらためて読むことで、いろいろと気づきを得ていることがあります。著書の中にも出てくる「メンタルモデル」にかかわることです。
「メンタルモデル」とは、思考の前提や枠組みのことであり、効率的な思考や行動を可能にする反面、バイアスや思い込みを生み出します。
長く大きな組織の中で働いてきた経験、そして早期退職し、中小企業の支援をする活動を行っている経験によって、私の思考の前提や枠組み(私の価値感)が硬直化し、相手の立場に立たず、過去の成功体験やパターンを安易に適用し判断していることが多いのではないかと思うようになりました。
私の意思決定や行動は、下図の氷山モデルの目には見えない深いところの「メンタルモデル」に大きく影響されているといえます。
シングル・ループ学習
一般的にマネジメントサイクルであるPDCAを規則正しく回すことが、組織が成果を上げるための基本であり、そのためにも、しっかりと計画(P)を立てるために、外部環境、内部環境、そして経営資源を分析し、目的・目標に向けた実行計画とその評価指標(KPIなど)を決める必要があります。
実行(D)の結果は、組織にフィードバックされ、評価指標の達成状況をみて(C)、次の行動(A)の意思決定を行います。
このP-D-C-Aのサイクルが「経験を通じて学習する」という意味で表現されると「シングル・ループ学習」と呼ばれています。
あくまでも、当初立てた計画や方針の前提が変わらない、実行が予定通り進まないのは、やり方が悪いだけ、というサイクルに陥ってしまうと、組織の成果は望めなくなってしまいます。これがシングル・ループ学習の問題点です。つまり、自らの思考の前提や枠組みを疑うことなく、視野を狭め、組織の目標と徐々に乖離していく状況を生み出します。
ダブル・ループ学習
このシングル・ループ学習の問題点を小さくするために、もう一つの学習サイクル、「メンタルモデル」を見直すサイクルをシングル・ループ学習に追加したダブル・ループ学習がよいとされています。
上記PDCAのD→Cのステップで組織にフィードバックされた様々な情報に基づき、私(我々)の「メンタルモデル」が目標達成を妨げる要因になっていないのか?と疑い、計画(P)の前提となっていた方針や戦略そのものに、思い込みや、バイアスがかかっていなかったかを検証する作業を入れ、新たな意図や前提を再設定した方針や戦略に基づいた計画(P)に修正し行動プランに落とし込むのです。
繰り返しになりますが、思い込みやバイアスが掛かっていないかを深く疑い、検証するループを加えることが、ダブル・ループ学習といえます。
「メンタルモデル」を疑う方法
簡単に言ってしまうと、「自分(自組織)の、思い込みのパターンにどれだけ気づけるか」になります。
いくつかの方法を下記にご提案します。
上手く関係が築けなかった部下とのやり取りを思い出す
部下が自分の思うような行動を採ってくれない、組織の方針に基づいた行動に、時間が経過しても変わらない。部下との会話が、前向きな会話とならない。このような経験はみなさんにもあると思います。
この時、心の中で何を思い、言葉として発していたか?問題をありのまま見ようとせず、自分の思考パターンに押し込んで、自分に都合の良い解釈をしていなかったでしょうか?
今振り返ると、部下との対話を重ねることで、新たな前提や枠組みを一緒に考えることはできなかったでしょうか?
自分が上司に反発し、本心では従わず行動していたことを思い出す
皆さんの中には、過去に仕事の中で「こんなことを続けていても意味ない!」「今の仕事は、本当に顧客のためになっているのか?」「上司に気付かれない程度に、自分のやり方でやってみよう!」と考えたことはないでしょうか?
これは、上司の「メンタルモデル」を通じて出てきた方針や指示に対してあなたは腹落ちしていなかった、ということだと思います。
あなた自身の「メンタルモデル」を通じて出てきた意思と食い違っていたのでしょう。お互いの「メンタルモデル」をすり合わせる方法はなかったのでしょうか?あなたの「メンタルモデル」には、思い込みやバイアスはかかっていなかったでしょうか?
「そもそも論」ができる組織風土が大切
ダブル・ループ学習ができる組織とは「そもそも、この仕事は何のためにやっているのか?」「そもそも、この仕事は、お客様の価値提供につながっているのか?」このような「そもそも論」がいつでもできる風土が醸成されている組織であると思います。
PDCAサイクル+「そもそも論」ができる風土=ダブル・ループ学習 ではないでしょうか
上記のような組織を作っていくためには、全社レベル、部門レベル、個人レベルにおいて、さまざまな啓蒙活動や取組みが行えることでしょう。特に、組織のリーダーはこの事を自覚すべきであると思います。
そして、「学習する組織」をもう一度学び直してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- 「学習する組織」入門 小田理一郎著 英治出版
- マンガでやさしくわかる学習する組織 小田理一郎著 日本能率協会マネジメントセンター
- 入門 組織開発 中村和彦著 光文社新書