就業規則をもっと身近なものにできないか?

採用、定着や高齢者継続雇用に関わる相談助言活動の仕事が増えてきたことにより、「就業規則」とはどのように作るのか、そしてどのように社内で活用しているのかに疑問を抱くことが増えてきました。

そのような時期に、「改訂3版 『サッと作れる小規模企業の就業規則』 特定社会保険労務士 三村正夫氏著 経営書院出版」に出会い、読ませていただく中で大変、勉強をさせてもらいました。

これまで私は、中小企業の「就業規則」は、社会保険労務士の先生方が、経営者と相談しながら作るもの、そして、労働基準監督署に届け出るもの、そして従業員がその就業規則を読むことはほとんど無く、わからないことがあれば人事部門に確認する、というくらいの理解でした。

しかしながら、本書では、日本の全法人の約70%強が従業員10人未満であり、「就業規則」を労働基準監督署に届け出る義務がないので、労務トラブルのリスクが高く、トラブル発生した際には経営に甚大な影響を与えると警告されていました。

働き方改革関連法への中小企業の対応

働き方改革関連法が2019年4月から施行され、中小企業にとっては下表のような法律への対応をしてきました。

項目施行時期内容
年次有給休暇の5日間取得義務2019年4月から就業規則の改訂、計画的な年休付与
労働時間の上限規制2020年4月から1か月の上限:45時間
1年の上限:360時間
<特別条項>
1か月の上限:繁忙期は1月100時間未満
及び2~6か月平均80時間以内
(いずれも休日労働含む
45時間超は年6回まで
1年の上限:年間上限720時間以内
(休日労働含まない
同一労働同一賃金2021年4月から雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇
賃金債権時効延長2020年4月から2年から3年へ(未払い残業請求など)
法定時間外労働月60時間超の割増率引き上げ2023年4月から割増率50%
限度基準適用除外見直し2024年4月から建設業、運送業にも適用
働き方改革法のスケジュール(筆者作成)

もうすぐ適応を迫られる項目として、法定時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金率が25%から50%に引き上げられること。そして、建設業、運送業にも働き方改革法案が適応され、残業の上限規制がかかり、違反した場合は罰則を科せられるとのことです。

これらの働き方改革法案は、従業員を雇用している企業すべてに適用されることから、「うちの会社は従業員が少ないから・・・」などと言ってられる状況ではないということです。

小さな会社と言えども、労務管理、特に労働時間の管理はIT化し、出退勤時間、時間外労働時間、休日労働時間は、誰もがすぐに閲覧できるようにしておくべきと思います。

従業員がいつでも就業規則を閲覧することはできますか?

みなさまの会社では、従業員がいつでも就業規則を閲覧できるような環境になっていますでしょうか?

経営者自身が就業規則に何を規定しているかを忘れてしまっている方もいると思います。

しかし、経営者自らが、始業時間、終業時間、休憩時間(いわゆる所定労働時間)、休日(所定休日と法定休日)、休日の振替そして、年次有給休暇については、しっかりと理解し従業員に対し正確にわかりやすく説明できるようになっている必要があると思います。

一般的に就業規則の文章は難しく理解しにくい内容となっていますが、できるだけわかりやすい文章で就業規則を作成し、従業員の誰もが閲覧できる場所(社内用Webなど)に保管しておくのが良いと思います。

なぜ、そのような環境を整備しておいた方が良いと思うかというと、働く従業員側の働き方に対する意識や価値観が大きく変化してきているので、労働に対してメリハリがなく、曖昧にしていると、例えば残業時間計算の信頼性がなくなり、サービス残業を許してしまう組織風土になってしまうからです。しっかりと所定時間内に仕事を終わらせることが生産性向上にもつながりますし、労務トラブルのリスクを減らすことにもつながります。

服務規程を業務マニュアル的に活用しよう!

「改訂3版 『サッと作れる小規模企業の就業規則』 特定社会保険労務士 三村正夫氏著 経営書院出版」では、従業員の少ない会社は、就業規則の中に「経営理念」「行動指針」「従業員として守るべき服務規程(懲戒処分の対象となりうるもの)」「業務マニュアル」をしっかりと書き込むことを提案されています。

私は、三村先生のこの提案は素晴らしく、その通りであると感じました。

就業規則を日常的に閲覧し活用するきっかけにもなります。研修や会議の時のテキストとしても活用できます。さらに、最近では、ハラスメント、個人情報保護、情報セキュリティ、SNS活用、会社の機密情報、営業情報の取扱いなど、すべての従業員に必ず守ってもらわないといけないことがたくさんあります。そのような項目を服務規程の条項にしっかりと書き込んでおけば従業員にとって「注意しなければならないこと」が明確になります。

もう少し業務レベルに落とし込み記述すると業務マニュアルとしての活用も可能ではないかと思います。

まとめ

2022年6月8日のオフィシャルブログ「人事管理の基本を押さえる(1)」で人事管理の構造について説明しましたが、本ブログで取り上げた「就業規則」は、「雇用管理」「就業条件管理」「報酬管理」「人事評価管理」「社員区分と等級制度」の用語の定義や規則をまとめたものとなります。

従業員の少ない会社にとっては、労働時間・残業や退職、懲戒処分にかかわる服務規程など、必要最低限の条項を明文化しておくことで、メリハリのきいた会社運営を行うことができると思います。

会社それぞれに、組織の成長過程があります。成長のレベルに応じた「就業規則」づくりがとても大切であることに気づかされました。