ジョブ型雇用と中小企業との親和性

最近、「ジョブ型雇用」に関連する仕事や相談がありました。

一つは、あるクライアントと、中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が進まない要因について議論してる時に、役割と期待そしてスキルや経験を具体的に定義して、組織の内外から人材を探す必要があるという課題が出てきました。

もう一つは、ある組織が現状のJD(ジョブディスクリプション:職務記述書)を作成したいという案件のお手伝いをすることになり、決められた書式に則って作成することになりました。

ここでは中小企業にとって、この「ジョブ型雇用」は親和性があるのかどうかを検討していきたいと考えています。

まずは、よく比較対象として出される「メンバーシップ型」と「ジョブ型」を比較して、その概要を掴みたいと思います。

「ジョブ型雇用(人事制度)」の概要

上記の比較からは、少し伝わりにくいですが、ジョブ型の人事制度の方が経営方針、事業方針に沿って即戦力を配置し、そのジョブに対する成果によって評価する考え方が筋として通っています。さらに、労働者もキャリア形成の意識が高い人でないと適応していけません。

次に、「ジョブ型人事制度」導入のインセンティブを企業側と求職者(労働者)側のそれぞれから考えてみたいと思います。

このように見ていくと、新卒を一括大量採用してきた大企業が、終身雇用を基本とした従業員の能力開発や育成を基本とした人事制度では、不透明な社会経済環境、グローバルな競争環境の中で、優位性を確保できないために、ジョブ型雇用(人事制度)を取り入れることに前向きになっていると捉えることができます。

中小企業の人材確保と人事制度の現状

中小企業にもさまざまな企業規模、組織体制があるので、ひとまとめにして論じることは難しいと思います。大阪府の就業支援施設であるOSAKAしごとフィールドに相談に来られる中小企業様の場合で考えると、ハローワーク求人や公的機関のマッチングイベント、交流会などを活用し中途採用で何とか人材を確保しているのが現状です。不足している職務は、営業、店舗販売、製造作業等の現場職務が多い印象を受けます。

人事制度は、職種×勤続年数×等級による賃金テーブルを持ち、目標管理シートと定期的な面談を人材育成と評価のツールとして運用しているのが一般的です。とはいうものの、職種毎の社員等級に「簡易的な職能定義」はあるものの、客観的な運用は難しく、経営層が、社員の働きぶりや業績への貢献度合いを見て、相対的に評価していると推察できます。

中小企業がジョブ型雇用を採用しにくい理由

中小企業にはジョブ型雇用を採用しにくい要因があると思います。大企業でも、管理職ポストから「ジョブ型雇用」を採用しているように、経営方針、事業方針に影響力を持つジョブから定義していきます。中小企業においては、数少ない主要ポストに、ジョブを定義した上で、会社内外から人材を登用することになり、会社の組織風土や経営そのものに影響を与えかねません。整理すると下記のようなポイントを挙げることができます。

  • そもそも事業戦略実行のためのジョブを定義することが難しい
  • そのジョブに見合う人材を労働市場から調達できる報酬が準備できない
  • 採用できた人材が、既存の人事制度や組織風土を受け入れない可能性がある
  • 既存の従業員が、採用した人材を受け入れず、モチベーションが下がる可能性がある

このように考えると中小企業にとっては、採用しにくいものと言えます。

中小企業にとって、本当にメリットがないのか?

ジョブ型雇用や人事制度をセットとして採用することはできなくても、少しでも考え方を取り入れて中小企業の現状の経営や人事制度を改善することはできないでしょうか?

生かせる考え方や活用方法の概要を2つの視点から提案させていただきます。

既存事業に必要なジョブの再定義

既存事業にかかわる職務は、前任者から引き継がれることを繰り返し、職務ではなく作業になってしまっていることがよくあります。現状のJD(ジョブディスクリプション:職務記述書)を、本人が作成すると現状行っている仕事を中心に積みあがっていきます。

しかし、もっとも重要であるのは「どんな仕事をしているか」ではなく「何のために仕事をしているか」です。会社及び事業の方向性、もっと遡ると「顧客の価値提供」につながっているかの視点です。

よって、自分の職務洗い出しの際には、その仕事の価値に点数をつけて、客観的に並び替えることが必要です。

その上で、あるべきジョブを再定義することができれば、そのジョブを任されている社員にとって、飛躍的な生産性向上のきっかけとなります。

人から仕事を考えるのではなく、顧客提供価値⇒事業戦略及び方針⇒組織体制⇒職務⇒ふさわしい人材(又はふさわしい仕事の仕方)の順序で考えることは、中小企業の経営層と幹部にとっては大変重要なことと思います。

新規事業に必要なジョブの定義

中小企業が新しい事業を始める際に、そのプロジェクト責任者や主要メンバーのジョブを定義することは同意いただきやすいと思います。

ここで重要なことは、JD(ジョブディスクリプション:職務記述書)を言語化し文書にすることができるかです。網羅すべき代表的な項目は

  • ポジション名
  • 目的・使命・責任の範囲
  • レポートライン(指揮命令系統・組織の位置づけ)
  • 期待する成果
  • 主な業務
    • 企画立案・問題解決
    • 計画・管理
    • 組織マネジメント・人材育成
  • 必要な業務経験、資格
  • 報酬にかかわる事項

などが挙げられます。

このJD(ジョブディスクリプション:職務記述書)をベースにして社内での募集又は、労働市場(外部)から募集することが可能になります。

例えば、中小企業の新規事業の取り組みにおいてJDを社内に公開し、同様に社外にも求人を出すような行動を、経営者が行ったら既存の従業員からはどのように見えるでしょうか?

従業員が、自らの意思でキャリア形成をしていく必要性を感じるきっかけになると、私は思います。

残された課題

ジョブを定義していくことをきっかけとして、既存の人事評価制度や賃金体系との矛盾や不整合が露呈する可能性は高いと思います。また、優秀な人材を確保するための報酬額も限界があります。

大企業とは違う、中小企業なりの人材の確保の仕方や人材育成の道筋については今後の課題であり、我々外部専門家がもっと実践の中でアドバイスできるようにならなければならないと考えています。