企業における今後の高齢者雇用の課題

高齢者雇用の背景

令和3年4月1日より改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。

人口統計によると、今後、生産年齢人口(15~64歳人口)は減少の一途をたどり、2030年には約6,875万人、2065年には約4,529万人と推計され、若年者を採用することは困難になっていくことが予想されます。

また、国の経済・財政の視点から見ても、高齢者が70歳まで働き、年金支給にうまく接続されることも国の政策課題である。このような背景から、高年齢者雇用安定法、雇用保険法の改正が行われています。

このような外部環境に適応していくことを考えたとき、企業は「高齢者の雇用」を戦略的課題として捉え、ポジティブな経営資源としていくことが望まれます。

高年齢者雇用アドバイザーとは

この「高齢者の雇用」を戦略的課題と考えたとき、企業の状況ごとに、さまざまな取組課題が浮き彫りとります。これらの取組課題に具体的にアプローチし相談対応や助言、提案を行うのが独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「高年齢者雇用アドバイザー」です。

高齢・障害・求職者雇用支援機構が高齢者雇用の関係業務を行う根拠は、高年齢者雇用安定法第49条、雇用保険法62条、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構法第14条に規定されています。その中で高年齢者を雇い入れる事業主等に対して相談その他の援助を行うことが記述されています。その事業主等(企業等)に対して直接的、技術的に、相談その他の援助を行うものが高年齢者雇用アドバイザーです。

高年齢者雇用アドバイザーの役割

高年齢者雇用アドバイザーの基本的な役割は、継続雇用等を中心とする生涯現役社会の実現に向けて「企業等のニーズに対応した相談及び助言・70歳までの定年や70歳までの継続雇用延長に向けた提案・企画立案等」を行うことです。また、アドバイザー活動の基本スタンスには、クライアントである企業の立場や状況に寄り添った対応が不可欠です。一方で国としての高年齢者の雇用推進策の一部を担うものでもあります。

具体的には①定年制度、継続雇用制度等の整備②賃金・退職金制度の整備③高齢者の職務定義や評価制度の整備➃職場改善、職域開発⑤能力開発やモチベーション向上のための研修制度の整備⑥労働安全衛生管理、健康管理に関する課題⑦シニア求職者の採用活動や定着に関する課題などが考えられます。これらの諸課題に対して知見、ツールを活用するとともに、アドバイザー自らの創意工夫によって解決のための助言・提案を行う必要があります。

高年齢者雇用に関連する法令等のポイントについて

高齢者雇用に関連する法令等のポイントとして下に3つの法令ポイントを解説しています。

改正 高年齢者雇用安定法(令和3年4月より施行)

70歳までの就業機会の確保が努力義務となる

高年齢者就業確保措置とは
定年が70歳未満の事業主、70歳以上まで引き続き継続雇用する制度を導入していない事業主は、以下のいずれかの措置を講じるよう努める必要がある。

①70歳までの定年引上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度の導入(特殊関係事業主に加えて、他事業主によるものを含む)
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
◇事業主が自ら実施する社会貢献事業
◇事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業

高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針
・上記の就業確保措置の5つの措置のうち、いずれの措置を講ずるかについて、労使間の協議が望ましい。
・ 雇用による措置に加え上記④⑤(創業支援等措置)を講ずる場合に過半数労働組合等の同意を得ることが望ましい。
・ 対象者を限定する基準は設定可能、但し恣意的、公序良俗に反するものは認められない。

※以下の基準は認められない
× 会社が必要と認めたものに限る(基準がないことに等しい)
× 上司の推薦があるものに限る(基準がないことに等しい)
× 男性(女性)に限る(男女差別)

パート・有期雇用労働法(2021年4月1日からは中小企業にも適用)

同一企業内における正社員と非正規社員(パート労働者、有期雇用労働者)との間の不合理な待遇差をなくすことを目的としている。

不合理な待遇差の禁止
同じ労働であれば、同じ賃金を払う必要があるという同一労働同一賃金ガイドラインに基づき、不合理な待遇差を禁止している。

労働者の待遇差に関する説明義務の強化
非正規社員は正社員との待遇差がある場合に、その内容や理由について事業主に説明を求めることができる。労働者から説明を求められた事業主には待遇差について説明する義務が生じる。

不合理な待遇差であるかどうかを検討するポイント
職務内容(業務内容+責任の程度)、職務内容や配置の変更範囲(人事異動や役割の変化有無や範囲)、その他の事情(成果、能力、経験、合理的な労使慣行、労使交渉の経緯など)を考慮して判断される。

労働安全衛生

全労災死傷者に占める60歳以上の割合が26.8%(2019年)
全労災死亡者に占める60歳以上の割合が36.2%(2019年)
この現状からも、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(令和2年3月16日厚生労働省・通称エイジフレンドリーガイドライン)を参考に就業上の災害防止対策に積極的に取組むことが求められる。