SCP理論とRBV(資源ベース理論)
はじめに
このホームページを立ち上げてから1年7カ月となります
なぜか断トツでページビューの多いコンテンツが「経営理論>SCP理論」です。
このコンテンツは、「世界標準の経営理論(ダイヤモンド社 入山章栄著 2019年12月)」を参考とし、中小企業のビジネスモデルを再点検する時に活用できる経営理論を整理する目的で、2020年5月頃から順次公開していったものです。
どんな人がどんな目的で見ているのか?とても気になります。
本ブログではSCP理論とRBV(資源ベース理論)、そしてそれぞれの理論から生まれたフレームワークについて事例を加えながら、もう少し詳しく説明したいと思います。
SCPとRBVの背景
両理論とも経済学の「完全競争」から理論が展開されている。「完全競争」の状態が、企業にとっては全く儲からない状態であることはみなさんも理解できると思います。だから、その状態から乖離するための理論展開なのです。
もう少し丁寧に説明すると、経済学の「完全競争」から「独占」に近づけるためには、企業自らが、業界の中の、どこに位置取りするか、どのような経営資源(リソース)を持つべきかを説明する理論です。
経済学の「完全競争」は次の3つの条件を満たす市場(=産業)の状態
大前提 人や企業は合理的な意思決定を行う
条件1 市場に無数の小さな企業が存在し、どの企業も市場価格に影響を与えることができない
条件2 その市場に新しく参入する障壁(コスト)がない。また、撤退する障壁もない
条件3 企業が提供する製品・サービスが、同業他社と同質である
RBVを理解するためには、4つめの条件を理解する必要がある
条件4 製品・サービスをつくるための経営資源(技術・人材など)が他企業にコストなく移動できる
条件4が満たせないと条件3を満たすことができないと考える
つまり、SCP理論は条件1~3の真逆を狙うためには、どこの業界で、またその業界の中でも、どこに位置取りし、その地位を脅かされないように差別化すればよいのかという理論です。
RBVは、その差別化の根拠をリソース(経営資源)に求め、他社が真似できないリソース(経営資源)を持つことであるという理論です。
下の表はSCP理論とRBVの基本的な考え方とその理論から導き出されたフレームワークを整理したものです。
フレームワークを使う意図
フレームワークとは「思考や分析のための補助ツール」です。
インターネットを検索していても、フレームワークの説明だけが独り歩きしていることが多い。
フレームワークを活用するのであれば、その開発者の意図を汲み取り活用すべきであると思います。
5フォース分析
SCP理論から導き出されたフレームワークが5フォース分析です。
自社を取り巻く外部環境を「5つ脅威(力)」に分類し、それぞれに、どのような脅威があるか?、その脅威の強さは?、自社はその脅威に対抗できているか?を分析する。5つの脅威に対し完全に対抗し、跳ね返している状態が「独占」になり、もっとも利益を上げることができる状態です。
5つの脅威とは
- 既存企業の競争の激しさ
- 新規参入の脅威
- 売手(供給業者・サプライヤー)の交渉力
- 買い手(顧客・市場)の交渉力
- 代替品の脅威
です。下図にそれぞれの脅威ごとに問いが準備されているので、思考や判断の参考に使うことをお勧めします。
そして、地方自治体の公共工事の請負事業者を例にして5フォース分析を行った場合、どのような結果になるかも掲載したので参考にしてください。
VRIO分析
RBV(資源ベース理論)から導き出されたフレームワークがVRIO分析です。
RBVでは、市場や業界の中で「独占」の状態はできないが、一時的ではなく長期に渡って差別化することができる。それは、長期に渡って模倣困難な経営資源を手に入れることであると。つまり、経営資源(リソース)と持続的な競争優位の関係に着目しているのです。
さらに言えば、持続的競争優位を獲得するための資源(リソース)とはどのような条件を満たしたものなのかを分析する必要がある。その分析の方法がVRIO分析なのです
VRIOとは
- 経済価値(Value)
- 希少性(Rarity)
- 模倣困難性(Imitability)
- 組織(Organization)
の頭文字である。
そして、模倣困難な条件とは
- 蓄積経緯の独自性:長い時間をかけて組み合わせて蓄積されたリソース
- 因果曖昧性:因果関係が複雑なリソースの組合せ
- 社会的複雑性:リソースが複雑な人間関係・社会的関係に依存(企業文化・サプライヤーとの関係)
である。
下図はVRIO分析を補助するために、リソースを分類しやすくし、抽出したリソースを分析したときにV/R/I/Oのすべてに〇が付くかどうかを行う表である。
経済性(V)、希少性(R)、模倣困難性(I)の3つに〇が入っても、そのうち模倣されてしまいます。4つ目の組織の力(O)つまり、組織の仕組みとして、いつでも、誰でも同じことができる。そこまで到達して、持続的な模倣困難なリソース(経営資源)ということができる、と説明しています。私の感想としては、ここまでくると「経営資源」というより「ビジネスモデル」や「ケイパビリティ」と表現しても良いと思います。
RBVの課題
RBVには課題があることを認識しておく必要があります。
VRIO分析で抽出した経営資源がSCP理論の5フォース(5つの脅威)の対抗要因として強化するという観点が必要である。また、持続的競争優位となる経営資源とは単一の資源(リソース)でなく、統合的に組み合わさったものであるからこそ模倣困難であることが多い。
あくまでも、利益を持続的に創出する=「完全競争」から少しでも「独占」に寄せること
そのための分析であることを忘れてはいけないと思います。
以下にRBVの物足りない部分を挙げておく
製品・サービスの市場評価により価値あるリソースは変わってしまう
先進国市場で評価される高機能製品を生み出す社内リソースも新興国市場では価値あるリソースと言えなくなる
ブラックボックス化
「リソース→競争優位」の因果関係を述べているが、企業が求めているのは「競争優位を生み出すリソースをどのように選び、組合せ、活用していくか」であり、それには答えていない。
メッセージ性が弱い
「企業は」価値があって、希少で、他社から模倣されにくいリソースを持つべき」と主張しているが「リソースを模倣困難にするにはどうすべきか」といった踏み込みが弱い。
5フォース分析とVRIO分析を組み合せて活用する
中小企業に対して、両理論から導かれたフレームワークを組み合せて活用することを提案したいと考えています。
- 5フォース分析により、今いる業界又は戦略がよく似た企業グループ(戦略グループ)、今のポジショニングから転地した方が良いのかどうかを検討する
- 5フォース分析により、5つの脅威(力)に、十分対抗できているかどうかを評価する
- VRIO分析により、評価したリソースの中で5つの脅威(力)に対抗するために強化できるものはないかという視点で再評価する
- リソース同士を組み合せたり、組み替えたりすることで、新たなリソースを生み出すことができないかを検討する
- 定期的に、何度も5つの脅威とリソースの点検を行う
以上
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